直木賞作家・三浦しをんが小説の「凄さ」を感じた5作

更新日:2013/1/16

 直木賞受賞の映画化作品『まほろ駅前多田便利軒』にひきつづき、『まほろ駅前番外地』のドラマが1月11日からスタート、また、2012年本屋大賞受賞作の『船を編む』の映画公開も4月に控えている人気作家・三浦しをん。『ダ・ヴィンチ』2月号では、今年ますます人気を博すこと間違いなしの三浦しをんを大特集。

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 ロングインタビューや、映画監督・大根仁との対談などにくわえ、「本を読むことだけは飽きたことがない」という彼女の愛する作品についてのインタビューも掲載している。

 ――小説の「凄さ」。三浦さんは自分が作家になってみて初めて気付いたことがあった。
「自分の好みの小説を書けるとは限らない、ということです。丸山健二と中井英夫は、自分がずっと好きで読んできたのに、その世界に近付くこともできない、真似さえできないと感じています。『水の家族』は中学生のときにたまたま読んで、打ちのめされました。それまでは物事には何であれ理由や意味があると思っていたけど、そうとは限らず、だけど意味のないことが悪いわけじゃないと理解を得たんですね。中井英夫は短歌を読むのが好きだった時期に知り、貪るように読みました。特に『虚無への供物』は主人公の氷沼家の場所や五色不動尊を実際探しに行くほど好きですね」
 大西巨人の『神聖喜劇』を知ったのは、高原書店でアルバイトをしていたころ。
「ちょうど絶版になっていた時期で、この本を探しに来る爺さんが凄く多かったんです。聞かれるたびに“え? 大橋巨泉?”とか思ってたんだけど(笑)、別人だと教えられて。その後、復刊されたものを読んでみたら、むっちゃ面白かったんですよ。軍隊の話で文章も骨太なのに、爆笑できる箇所があるってなんなんだ!と」
 まったく系統は異なるが、『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』も楽しく読んだ一冊。
「非モテのオタク男子が主人公っていうだけでもぐっとくるんですけど、女の人たちの語りの部分が神話っぽくて凄くいいんです。装丁も訳もいい。今まで読んだことがないタイプの小説で、新鮮な驚きがありました」
嵐が丘』は、マンガ『ガラスの仮面』の作中劇として登場したことがきっかけで手に取った。
「実際どんな話なのかな、と思って読んだらマンガで描かれていたその先が話のメインだったという(笑)。メロドラマでもあるけどホラーでもある狂気の世界ですよね。ヒースクリフの歪んだ愛情がもうねぇ……(感嘆)」

【三浦しをん、小説の凄さを感じた5作】
■『水の家族』丸山健二 求龍堂
■『新装版 虚無への供物』(上・下)中井英夫 講談社文庫
■『神聖喜劇』(全5巻)大西巨人 光文社文庫
■『嵐が丘』エミリー・ブロンテ/著 鴻巣友季子/訳 新潮文庫
■『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアス/著 都甲幸治、久保尚美/訳 新潮社

取材・文=藤田香織
(『ダ・ヴィンチ』2月号「三浦しをん大特集:三浦しをんが愛する本」より)