“おとぼけ”高良&“アンニュイ”綾野がたまらない! 『横道世之介』の期待度

更新日:2013/1/17

 第7回本屋大賞第3位に選ばれ、柴田錬三郎賞を受賞した吉田修一の青春小説『横道世之介』(文藝春秋)が2月23日の封切りを前に話題を集めている。

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 この物語の主人公は、大学進学のために長崎から上京した横道世之介。基本的に「ノー」と言わないマイペースな性格の彼が、親友カップルの妊娠・結婚、流されるままに入ったサンバサークル、夜勤バイト、お嬢様との恋愛などさまざまな出来事に巻き込まれる。設定がバブル経済期とあって、“パー券”や“ねるとん”など懐かしの単語が飛び交い、華々しい雰囲気が感じられる中、過剰な欲を持たずに生きる世之介の温かいキャラクターが魅力的だ。
 そんな作品の中で、女性ファンが気になるのはなんといっても、高良健吾演じる世之介と綾野剛演じる加藤雄介、イケメン2人の絡みだろう。加藤は女性に興味のない繊細な美男子という役柄で、綾野のイメージにぴったり。一方の高良演じる世之介は朴訥な青年で、ふたりの一見噛み合わないやりとりを愛おしく感じる原作ファンも多いようだ。
 そこで今回は、いち早く原作から、2人の“淡々としているようで実は熱い友情”が感じられるシーンを抜粋してみたい。
 まずは自宅にエアコンのない世之介が、加藤の家に入り浸っているシーン。

――玄関の鍵が開く音がして世之介は慌ててベッドから起き上がり、さもそこで寝ていたように床に移動した。
 まるで自分の部屋のように過ごしているがここは加藤の部屋である。
「今、ベッドで寝てただろ。……見えてたよ」
(略)
加藤がリモコンでエアコンを消し、締め切ったカーテンと窓を開ける。寝ぼけた世之介の目に夏の西日は厳しい。
「最近、本気でお前のためにクーラーを買ってやろうかって考えてる自分が怖いよ」――

 家主が帰ってきたために慌ててベッドを抜け出す世之介と、それを呆れながら見ている加藤。アンニュイな表情でため息をつく綾野と、バツの悪そうな表情を浮かべる高良を想像するだけ胸がキュンとする読者も多いのでは?

 続いては、加藤が自分の性的嗜好をカミングアウトする場面。

――「俺さ、男の方がいいんだよ」
あっさりした口調だったが珍しく加藤が緊張している。
「あ、そうなの?」
「あ、そうなのって……それだけ?」
逆に加藤の方が驚いている。
(略)
「じゃなくて……。っていうか、少しは動揺とかしないわけ?」
「してるよ。クーラーなくなりそうなのに」
「それだけ?」
「うん」
「とにかくそういうことだから」
「分かったって。……とにかくお前んちには泊ってもいんだよな?」
世之介の言葉に心底呆れたように加藤が振り返る。――

 加藤が意を決してカミングしたにも関わらず、相変わらずクーラーばかりを気にしている世之介。彼の“おとぼけ”は他人へのやさしさとなる、ということがわかる象徴的な名場面だ。

 世之介がさらにすごい天然ぶりを発揮するのは、カミングアウト直後のシーン。食べかけのスイカを持ったまま加藤の散歩に付いてきた世之介が、実は単なる散歩ではなくハッテン場である公園に来たと知らされる。

――「じゃあ、俺が一緒じゃ、まずいじゃん」
「だから、まずいよ」
苛々を超えて加藤はほとんど怒っている。
「……じゃあ、俺はそこのベンチに座って待ってるよ」
(略)
「待ってるって……」
「邪魔しないから。ほら、早く行っといで」
園内に入った世之介は一番近いベンチに腰かけた。はやり座ったほうがスイカは食べやすいらしい。――

 友人がセクシャルマイノリティ—で、さらにはこれから快楽に溺れようとしている姿に、違和感を覚えるどころかまるで親のように見守る世之介。淡々と描かれているが、実は2人の間にしっかりとした信頼関係、友情があるということが読者に伝わる場面だ。
それ以上に、この世之介のおとぼけぶり、天然男子好きの女子にはたまらないだろう。どちらかというと、鋭利な刃物を思わせるシャープなイメージが強い高良が、どう演じるのか楽しみだ。
 このほかにも原作では世之介と加藤のつかずはなれずの友情は続くのだが、映画化にあたり一体どのシーンが使われているのだろうか。映画『横道世之介』の公式ホームページには、スイカを持った高良と綾野が話しこんでいる写真が掲載されているので、もしかしたら……? 2月の公開まで原作を読みこんで“予習”しておきたい!