ありふれた日々を描いた「日常系マンガ」がひそかな人気

公開日:2013/1/18

 仕事の整理や大掃除、親戚まわりへの挨拶に帰省ラッシュの波…。それらをくぐり抜け、ようやくほっと一息つけるようになったこの時期。気をゆるめた途端、どっと疲れが出てしまったという人も多いのではないだろうか。「しばらく家でのんびりしたい…」「人ごみはもうイヤ…」。そんなときにオススメなのが「日常系漫画」だ。

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 「日常系漫画」とは、数あるコミックの中でもひそかに人気を集めているジャンル。その名のとおり日常生活をテーマにした作品のことで、大きな事件はめったに起こることがなく、ただ淡々と流れていくゆる~い時間が描かれているのだ。しかしながら、それが読んでいてとても心地いい。ハラハラドキドキするような展開は待ち受けていないものの、どうしても先が気になってしまい、気がつくと作品の世界に入り込んでしまっている。

 そんな「日常系漫画」の中でも注目を集めている作品をいくつか紹介しよう。

 まずは『flat』(青桐ナツ/マッグガーデン)。これは「全国書店員が選んだおすすめコミック2010」にて栄えある第1位を獲得した人気コミック。超マイペースで脱力系の高校生・平介と、超忍耐強い保育園児・秋との関わり合いを描いたストーリーが魅力的な作品である。

 それまで平凡に生きてきた平介が、戸惑いながらも懸命に秋の面倒を見る姿は、読んでいて心がほっこりと温かくなる。一緒にお菓子作りをしたり、お泊りしたり…、2人の日々は決して派手ではないが、その分、妙な親近感が湧き立つ。

 また、同じ高校生つながりだと、『君と僕。』(堀田きいち/スクウェア・エニックス)も一読の価値ありだ。こちらは2011年10~12月と2012年4~6月の期間でテレビアニメ化もされたので、記憶に新しい人も多いだろう。作中の主要人物は、双子の浅羽悠太・祐希と塚原 要、松岡 春、橘 千鶴の高校生5人組。お察しのとおり、男子高校生が5人集まればおバカなことを繰り広げるだけ。他愛もないことで笑い転げ、はしゃぎまわる。その姿はありふれた光景だが、過ぎてしまうと二度と取り戻せない、とても貴重な時間なのだと気づかされるだろう。

 ゆる~い生活といえば、島での暮らし。ということで、最後に紹介するのは、長崎県・五島列島を舞台にした『ばらかもん』(ヨシノサツキ/スクウェア・エニックス)だ。主人公は都会育ちの書道家・半田清舟。ある日、自分の作品を酷評した書道界の重鎮に対して暴力事件を起こしてしまったことから、父親から「頭を冷やせ」と、島で生活することを余儀なくされてしまうのだ。そんな半田に対して、明るく接するのが琴石なるをはじめとする個性豊かな島民たち。最初のうちこそ都会での暮らしとの違いに戸惑いを隠せなかった半田だが、心のキレイな島民たちと触れ合ううち、次第に心境に変化が現れていく…。まさに、仕事に追われる都会暮らしの人にこそ読んでもらいたい1冊だ。

 これらの作品を読めば、何の変哲もない毎日がいかに大切なものなのかと気づかされる。派手なバトルものや非日常的なSF作品もいいけれど、たまにはこうした「日常系漫画」に浸って、のんびりした気持ちになるのもいいかもしれない。

文=磯田大介(OfficeTi+)