ニャル子さんだけじゃない! クトゥルフ神話ブームの拡大がとまらない

マンガ

更新日:2014/2/8

 クトゥルフ神話をモチーフにした作品はたくさんあるが、昨年の4月にアニメ『這いよれ! ニャル子さん』が放送されたことで広く知られるようになり、興味を持つ人が増えた。それもあってか、クトゥルフ神話をモチーフにしたラノベもたくさん登場している。『這いよれ! ニャル子さん』(逢空万太:著、狐印:画/ソフトバンククリエイティブ)のラノベと同時期に発売された『うちのメイドは不定形』(静川龍宗:著、森瀬繚:原案、文倉十:画/PHP研究所)も再び注目を集め、クトゥルフ神話と日本神話を絡めた『かんづかさ』(くしまちみなと:著、やすゆき:画/一二三書房)。さらに、1月13日にはクトゥルフ神話の創始者であるハワード・フィリップス・ラヴクラフトを女体化した『未完少女ラヴクラフト』(黒史郎:著、コバシコ:画/PHP研究所)まで発売された。しかし、その名前だけは知っていても、クトゥルフ神話がどういったものなのかまではわからないという人も多いのでは?

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 そもそもクトゥルフ神話とは、20世紀前半に活躍したアメリカの怪奇小説作家であるラヴクラフトが創作した小説たち。また、そこに登場する邪神を用いて弟子のオーガスト・ダーレスや友人たちが創作し、世界観を広げていった結果、創作神話として定着したものだ。

 そんなクトゥルフ神話の邪神たちが、ラノベの中でも様々な形で登場している。

 たとえば、『未完少女ラヴクラフト』では主人公のカンナが迷い込み、ラヴクラフト(通称:ラヴ)という少女と出会った異世界にクトゥルフ神話の世界観が盛り込まれている。だから、ラヴクラフトが書いた「魔女の家の夢」という作品に登場する魔女の使い魔で、人面鼠のジェンキンや空飛ぶ化け物で召喚したり懐かせることができるバイアクヘーが登場する。甲殻類のような姿で多数の鈎爪のついた足で移動するミゴは翼を持っており、テレパシーで仲間同士のコンタクトをとったり、生きたまま脳を取り出す医学や技術を持ち合わせた生物とされていた。見た目や能力は恐ろしく思えるが、この作品の中では設定を生かしながら、仲間をなくして子供のような声で「サビシイ」と泣いたり、カンナが怪我をしたら手当してくれるような心優しい生き物として描かれている。

 そして、『這いよれ! ニャル子さん』の主人公でオタクな美少女として描かれているニャル子さんのもとになったのは、様々な姿に化けることができ、人の世に混沌と死をもたらす存在と言われているニャルラトホテプ。本来の姿は触腕や鉤爪、手を自在に伸縮できる無定形な肉の塊として描かれることが多いが、その面影はどこへやら。ただし、死をもたらすと言われるニャルラトホテプ同様、根性焼きやバールのようなものでボコボコにするといった破壊的で残忍な一面を持ち合わせている。

 また、『うちのメイドは不定形』でも家事万能なメイド・テケリが登場するのだが、その正体は姿かたちを自由に変えることができる緑色の粘液状生物・ショゴスだったのだ。しかし、そんな禍々しいものとは思えないほど愛らしいテケリ。不定形という設定を生かし、お湯に3分浸けるとメイド姿になり、髪の毛が触手になったり、分裂してちびテケリが生まれたりもする。こんなショゴスならむしろ一緒に住みたくなる。

 一方、主人公が宮内庁所属の公務員「神祇官(かんづかさ)」という設定で日本神話とも融合されている『かんづかさ』では、退治すべき存在として巨大なヒルコ(=ショゴス)が登場。また、日本で有名なクトゥルフ神話作家である朝松健がデザインした“千葉県夜刀浦市”と呼ばれる架空都市を用い、そこに住む夜刀浦人と呼ばれる半魚人、半両生類的なキャラを登場させている。これは、カエルのような顔をしたディープワンズ(深きもの)と呼ばれる生物をモチーフにしたもの。こんなふうに、いろんな形でクトゥルフ神話が使われているのだ。

 またラノベだけでなく、ボカロでも巡音ルカをデフォルメした“たこルカ”が流行ったり、TRPGやエロゲといったジャンルでもクトゥルフ人気が高まった。人気の背景には、キャラクター重視の作品との親和性があるだろう。キャラクターの元になった生物に興味を抱き、クトゥルフ神話に手をだした人も多かったのでは?

 そもそもクトゥルフ神話体系は、誰もが自由にその設定やキャラクターを使うことができる。それゆえ、いくらでもその世界や人と繋がっていくことができるのだ。これはまさに、共作や二次創作的な楽しみ方を生み出した、原点とも言える作品だろう。
2ちゃんねるの「魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る!』」で話題になった『まおゆう 魔王勇者』(橙乃ままれ:著、toi8:画/エンターブレイン) 。初音ミクをはじめとするボカロ。いま、世界や物語をみんなで創りあげていくという構造を楽しむ人が増えている。

 こうした楽しみ方の原点でもあるクトゥルフ神話がいま注目を集めるのは、ある意味必然なのかもしれない。