世代を超えて作家が描き継ぐ戦争の記憶

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/25

 GHQの検閲により多くが削除された坂口安吾の小説『戦争と一人の女』。十数年前に無削除版が発表され、戦争の正体に疑問を持ち始めていた近藤ようこは、マンガ化を決意した。およそ6年の歳月をかけて発表された意欲作だ。

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 舞台は、敗戦間近の日本。「どうせ戦争で滅茶々々になるだろうから」と、虚無的な男と過去に女郎屋で働いていた不感症の女。戦争によって生かされている二人の同棲を描く物語だ。空襲が激しくなる度、高揚する女。男との空虚で刹那的な交わり。近藤ならではの官能的な筆致に総毛立つ。

 戦争を追体験させたマンガといえば、『はだしのゲン』がまず思い浮かぶ。反戦の思いを読者の胸に刻んだが、リアルな惨禍の描写がトラウマになったり、平和教育の一環で半ば強制的に読まされたことから、「戦争は悪いもの」といった単純な図式を教えこまれる一つの要因でもあった。「戦争とは何か」を捉え直す動きは、近藤だけでなく、こうの史代、今日マチ子なども挑戦しているが、彼女らが描く戦中における等身大の日常、表だけでない裏の部分に、私は初めて戦争に触れた気がした。現代に生きる私達と何ら変わりないことに気づくのだ。

 奇しくも本作が刊行された同じ昨年の12月、「ゲン」の作者・中沢啓治がこの世を去った。作者の反戦への痛烈な願いを改めて受け取るとともに、彼女らのように戦争に対する想像力を欠如させてはならない。

文=倉持佳代子
ダ・ヴィンチ3月号「出版ニュースクリップ」より)