『巨人の星』のスポ根精神は国境を超えられるのか!?

公開日:2013/2/14

 大阪市立桜宮高校バスケットボール部、女子柔道日本代表……連日メディアをにぎわせているスポーツ指導における体罰問題。厳しい練習や試練を根性で乗り越える、いわゆる“スポ根”も、かつては当たり前だったが、今の世の中とはマッチしていないのかもしれない。

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そんななか、スポ根主義の象徴ともいうべき名作マンガ、あの『巨人の星』(川崎のぼる:著、梶原一騎:原著/講談社)が、海を越えて遠きインドの地でリメイクされアニメ放送されているという。『巨人の星』といえば、主人公・星 飛雄馬が幼少時から父・一徹に厳しすぎる練習の数々を課せられながら、プロ野球選手として活躍するようになるまでを描いた、日本一有名な野球マンガ。

その『巨人の星』のインド版放映が実現するまでの舞台裏を描いた『飛雄馬、インドの星になれ!』(古賀義章/講談社)も先日出版された。同書によると、高度経済成長にあった“巨人の星”時代の日本と現在のインドはよく似ているらしく、プロデューサーである著者は「日本の“スポ根”はインド人をも熱狂させられるはず!」と確信し、現地へ乗り込んだのだという。しかし、やはり文化の違いは大きかったのか、制作現場やスポンサーとの交渉は困難をきわめる。なかでも最大のネックは、肝心の野球自体がそもそもインドであまり知られていないこと。そこでひねり出されたのが、野球を「クリケット」に置き換えるという奇策。野球じゃないって、いくらなんでも自由すぎだろ! もはや別物では? などとツッコまずにはいられない。が、「クリケット」は野球の元型ともいわれるスポーツで、バットとボールを使うなど野球と共通点が多い。何より、『巨人の星』が誇る“スポ根精神”が、国境のみならず競技のちがいをも超えることが証明されることになるはず……。

 かと思いきや、リメイクにあたって、改変されたのは競技だけではなかった。日本では当たり前のように放送されていたシーンが、アウトをくらってしまったケースもあったという。それも、『巨人の星』の代名詞ともいうべき、名シーンが――。

なんと、あの「大リーグボール養成ギプス」がNGになってしまったというのだ。大リーグボール養成ギプスといえば一徹の英才教育の代表アイテムであり、『巨人の星』のスポ根精神を体現するもの。大リーグボール養成ギプスを着けてこその星飛雄馬といっても言い過ぎではないだろう。筋力増強を目的とし、数本のスプリングを使った身体装着型の器具は、頭のなかで鮮明にイメージできる人も多いと思う。しかしこれが、なんと児童虐待の拘束具のようにも映るという指摘が入ったらしく、インドのテレビ倫理規定に引っかかってしまったそうだ。そこで現地スタッフが考案したのがスプリングの代わりに「自転車の廃チューブ」を利用するというもの。このアイデアのおかげでなんとか倫理規定を通過することができたらしい。

 ほかにも、一徹の厳しすぎる一面が問題になったらしい。それがちゃぶ台返しのシーンだ。本書曰く「食べ物がそまつに扱われることになるので、やはりアニメで描くことは許されないということだった」と書かれており、かなり議論は難航したようだ。そして、幾度の議論の果てに出た結論が「飲み物の入ったグラスの置かれた、サイドテーブルをひっくり返す」というものだったという。ちゃぶ台返しならぬ、テーブル返し……。

 「必要な体罰もある」「愛ある体罰ならいい」など、体罰を擁護する意見もいまだ日本では少なくないし、スポ根にいたっては感動物語として語られることもあるほど。が、日本人にとっては古き良き一徹のスポ根精神も、インド人からすると虐待になってしまう……。日本のスポーツ界は国際的基準からけっこう遅れているのかもしれない。