人を動かす迫力と説得力を作り出す、“暴走老人社長”のリーダーシップ

仕事術

公開日:2013/2/19

 人々の価値観が多様化している時代にあって、若い社員を厳しく育てることは思いのほか難しく、頭を悩ませている経営者も多いという。体罰の問題がクローズアップされている昨今にあっては、なおさらのことだろう。

 考え方の共通基盤がない相手に対し、意識や行動に影響を与えるようなコミュニケーションを図ることは想像するに難しい。何を言ってものれんに腕押し。かといって、殴ってわからせるなんて時代でもない。説教すればますます心は離れ、迎合したところで現状は変わらない。となると、「これだから最近の若者は……」と愚痴をこぼし、諦めムードを漂わせるのが関の山だろう。

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 そして、これは何も会社の経営者に限った話ではないはずだ。チームを統率する立場の人なら誰もがぶち当たる問題であり、課長や係長、学校の先生や草野球チームの運営者、もっと言えば子を持つ親ですら抱える悩みではないだろうか。

 では、どうしたらいいのか。

 こういった問題に対し、痛快にして痛烈なヒントを与えてくれるのが、『社長は少しバカがいい。─乱世を生き抜くリーダーの鉄則』(鈴木 喬/WAVE出版)だ。著者は、「消臭力」や「脱臭炭」といった商品でおなじみの生活雑貨メーカー・エステーの会長。「ムシューダ」シリーズのCMにも出演した経験を持つユニークな経営者が語るのは、ケンカ上等、独裁上等という、時代の風潮とは真逆を行く破天荒なリーダーシップ論だ。

「前の日に肩を組んで『頑張ろう』と言った相手に、次の日は『気が変わった。今日からキミはいらない』と言ってみろ。そのぐらいやったら会社は引き締まるぜ」

 こんな恐ろしいことを、著者は飄々と言ってのける。実際に社長時代、経営方針に反対する役員を解雇し、社員を恫喝して倉庫の不良在庫を一斉に処分させ、買収した海外企業の財務責任者を口ゲンカでねじ伏せて手なずけたりしている。戦中生まれの肝っ玉。その勢いはまるで“暴走老人”そのものである。

 しかし、これが冷静な人間観察や周到なリスク管理、緻密に練られた経営ビジョンに裏打ちされた行動だとわかると、途端に見え方が変わってくる。在庫の処分も、狙いはバランスシートの健全化。足繁く売り場に通い、この目で商品の売れ行きやバックヤードの在庫状況を確認しているからこそ、帳簿に記載された数字のごまかしをキチンと見抜くことができるのだ。

 エステーという会社は、競合相手がP&Gやジョンソンといった巨大グローバル企業になる。規模のまるで異なる企業と戦うためには、社員全員の脳を同期させ、筋肉質で機動力のある体制にしなければ到底敵わないというのが著者の経営哲学。すべては「変化し続ける時代に素早く反応できる会社づくり」のための計算された“暴走”だとしたら……。本書は単なる“リーダーシップ論”にとどまらず、リーダーがリーダーであるために必要な迫力や説得力を作り出すための具体的な“行動事例集”としても読める。

 人を動かすためには、地道な行為を積み重ねていくより他はない。そんな極めて当たり前のことを、圧倒的な熱量を持って教えてくれるオススメの1冊だ。

文=清田隆之