ガンダム、ヤマト、マクロス…名艦長らに学ぶ新しいリーダー論

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公開日:2013/2/19

 リーダー論を学ぶといえば昔から、武将や歴史上の偉大な人物からというのが定番。しかし、最近、新しい流れが生まれつつある。というのも、アニメのキャラからリーダー論を学ぶという本が出てきたのだ。それが、1月30日に発売された『俺の艦長』(廣田恵介:著、麻宮騎亜:イラスト/一迅社)である。この本では、『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』などの数ある作品から選りすぐりの名艦長24人をセレクト。その活躍とキャラクター性に言及しながら、生きざまを追っている。

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 たとえば『宇宙戦艦ヤマト』に登場する、沖田十三艦長。ご存知、宇宙戦艦ヤマトの初代艦長であり、さまざまな名シーン、名セリフを生み出してきた、ヤマトを語るうえでは、絶対に外せないキャラクターだ。しかし、彼にとっての出発点は、自責と屈辱に満ちたものだったと本書では書かれている。というのも、沖田は地球防衛艦隊の指揮官としてガミラス帝国と相対した際、彼の乗る司令船225号以外の艦隊を全滅させてしまった過去があるからだ。しかし、それでも沖田は言う、「わしは命あるかぎり戦うぞ。決して絶望はしない。たとえ最後のひとりになっても、わしは絶望しない」。圧倒的なマイナスの状況のなか、闇雲に希望を待つのではなく「絶望はしない」と断言する。その裏側にあるのは「絶望するよりマシなことをやっていく」ということだと、本書では書かれている。その言葉のとおり、彼はイスカンダルより届いたメッセージにも「今は信じるしかないでしょう」と答え、疑ってなにもしない道よりも、信じて努力する「絶望するよりマシなことをやっていく」道を選んだ。その決断は見事に功を成す。

 この「絶望しない」ということこそ、リーダーたるもの、人の上に立つ者に刻み込んでほしい第一のメッセージだ。この先行き不透明な世の中で、たとえ部下が圧倒的絶望にうちひしがれても、リーダーだけは「絶望しない」。最後の瞬間まで部下を信じて、自分も含めて努力する。それが、希望を呼び込むことになるのである。

『超時空要塞マクロス』の艦長、ブルーノ・J・グローバルからも学ぶべきことはある。彼は、地球に墜落した異星人の戦艦を改造したマクロスの艦長に就任したものの、その戦艦は、ある意味で欠陥だらけのものだったという。というのも、勝手に敵を砲撃してしまうわ、勝手に冥王星へワープしてしまうわ、主砲を使うのに変形させる必要があるわで、常識では考えられない数々のアクシデントを引き起こしてきたからだ。さて、そんな戦艦の艦長であるブルーノ・J・グローバルはどういった人物なのだろうか。心配事があるとパイプをくわえる癖をもち、そんなシーンが随所に見られる彼を、本書では、物事を楽観視できず、悪いほうへばかり持っていってしまう人間なのかもしれないと書いている。しかし、だからこそ、人型に変形したマクロスの右腕を敵艦の船体に突っ込ませるダイダロス・アタックを許可したり、無謀ともとれる作戦を立案し、実行に移すことができたのだ。心配性の開き直りといったところだろうか。安定しない目標に対して、さらに不安定な要素を重ねて可能性を見出す。それが彼という人間なのだという。そう、人の上に立つ者も、人間なのだから、無理に虚勢を張らずとも、心配性でもいいのである。だからこそきっと、手を差し伸べてくれる人がいるし、そこから生み出せるものもある。いつかブルーノ・J・グローバルのように、マイナスとマイナスをかけてプラスにするという荒業も、できる日がくるかもしれない。

 最後は『機動戦士ガンダム』の名艦長、ブライト・ノア。といっても、彼が名艦長と呼ばれるまでは、長く苦しい道のりだったという。一年戦争時、彼はまだ19歳の士官候補生に過ぎず、宇宙へ出たのも初めてだった。しかもそんななか、シャア・アズナブル率いるジオン軍の急襲を受ける。大混乱の最中、ガンダムのコックピットにいるアムロを見て「子どもです、子どもがガンダムに乗っているんです!」と狼狽する。名艦長の威厳なんて、これっぽっちもない。そんなスタートだったのだ。しかも、本来ホワイトベースの艦長であったパオロ・カシアスの戦死によって、なしくずし的に艦長となる。アムロの手助けもあり、激動の一年戦争を駆け抜けていくが、戦後は連絡船の艦長にされ、将校なのに部下に殴られるといった不遇ぶり。後にエゥーゴに入り、アーガマの艦長となるが、そこでもやっとこさティターンズを壊滅に追い込んだと思えば、主なパイロットのほとんどが戦死か精神崩壊を起こしているという状況。ざっと、その歴史をひもといても、とてもエリートである士官候補生とは思えない波乱万丈な人生を歩んでいることがわかる。しかし、ブライトはそのなかで、アムロをはじめとしてカミーユやジュドーなど、ニュータイプの少年たちの才能を見出している。そして彼らのために、自分がなすべきことを把握し、時には叱咤し、時には激励し、時には彼らが道を歩きやすいように裏方として調整もする。彼らに頼る分、彼らのために何ができるかを常に考えて行動する。これはぜひ、リーダーたるもの、刻み込んでほしいことだ。部下のために、自分が何をすべきか。ブライトを参考に、部下たちにとって本当にためになることを成してほしい。

 人の上に立つということは、苦難の連続だろう。きっと孤独を味わうこともあるかもしれない。しかし、そんなときこそ、この本を読んで、艦長たちの生き様に共感し、ときには教本として活用してほしい。現実は、アニメのようにはいかないかもしれないが、それでも、その努力を見ていてくれる人はいるのだ。