『おおかみこども』から『カリオストロの城』まで 長編アニメの絵本が侮れない!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/25

 昨年公開されて人気となった細田 守監督作品の長編アニメ映画『おおかみこどもの雨と雪』。2月20日にDVDが発売され、再び話題になりそうな気配だ。

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 実はこの『おおかみこどもの雨と雪』は、児童向けの絵本シリーズとしても角川書店より刊行されている。また、徳間書店からは、『天空の城ラピュタ』や『となりのトトロ』、『火垂るの墓』ほか、スタジオ・ジブリによる長編アニメが同じような絵本のシリーズとなっており、ほぼすべての作品を読むことが可能だ。いずれにおいても、アニメのカットが多数使用されており、本文の体裁こそ子どもむけにアレンジはされてはいるものの、そのストーリーは忠実にまとめられている。1冊読むと実際の映像作品のストーリーをほぼ掌握することができるだろう(作品によっては上下巻の2冊組のものもある)。特に、狼男と人間の女性との間に生まれた2人の子どもたちが古田舎で成長していく姿を描いた『おおかみこどもの雨と雪』や、おとぎ話の要素が数多く盛り込まれている『となりのトトロ』などは、アニメ絵本になっていること自体、なんとなくイメージすることができる。

 とはいえ、中にはかなり複雑な構造の作品もある。たとえば、同じく細田 守の代表作である『サマーウォーズ』(角川書店)は、その舞台こそ長野の原風景あふれる旧家だが、物語はインターネット上の仮想世界「OZ(オズ)」の中と並行して進んでいく。大人が見ていても、人によってはバーチャルな世界にシンクロさせることに馴染めない場合がある世界観なのだが、この絵本では、実際の映像作品にも挿入されていた冒頭でのOZを紹介ナレーションを若干子ども向けにアレンジした文を同じく冒頭4ページに渡って掲載し、いい意味で本編の空気を維持ししつつ押し切っている。逆に、映像作品では今ひとつ掌握できなかった大人数による親戚関係を、対応するアバター付きの家系図で示してくれているところは、情報の整理としてはありがたいくらいだ。

 また、『ルパン三世 カリオストロの城』(モンキー・パンチ、宮崎 駿/徳間書店)のような、ともすれば大人のセリフやユーモアが行き交う作品も気になるところ。ルパンがヒロイン・クラリスの眠る塔へ別の塔から空中を飛び石ジャンプのようにして移る“あり得ない”シーンの本文を一部紹介すると、「それを追って、ルパンも『わぁーっ!』もうとまりません。やけくそで、ジャーンプ! 予定とは、だいぶちがいましたが、なんとか、北の塔にたどりつきました。」と、本文ではいたってあっさりだが、その分、ページには小さいカットを細かに並べることで、映像の雰囲気が再現されている。すっかり有名となったラストシーンでの銭形警部のセリフ「いや やつはとんでもないものをぬすんでいきました。あなたのこころです」のくだりをはじめ、登場人物のちょっとしたセリフは、カットごとに吹き出しのセリフを入れたショートマンガの体をなすことで本文と連動させている。

 このような構成により、絵本などと言ってあなどるなかれ、なかなかどうしてと思わせる完成度で、もともとストーリーを知っている者が読んでも納得のいく仕上がりとなっている。

 もちろん、時間があるなら実際の映像を見るのが王道であることは先刻承知だが、子どもを持つ親世代でそれが難しい人は、読み聞かせることで子どもだけでなく自分自身も楽しむことができそうだ。そうすることで、どれも1冊1600円程度と高めな値段設定に対する「お値打ち感」も出てくることだろう。

文=キビタキビオ
(ダ・ヴィンチ電子ナビより)