ブームの自転車関連本、小説やマンガでも続々登場

マンガ

公開日:2013/2/23

 都内を車で走っていると、次々と自転車に追い越される。渋滞も関係なく、交差点を除いて信号もあんまり関係ない。駐禁も切られないし、健康にも良さそうだし、何しろ風をきって走る姿が気持ちよさそうだ。自転車にハマる人が増えるのもわかる気がする。知人には10万円ほどもする自転車を持っている人もちらほら。ちょっと乗らせてもらうと、軽くてスムーズでママチャリとは明らかに別の乗り物。いつかは自分も……そう考えながら、なかなか手が出ない人も多いのでは? 初心者には専門的世界に見え、入りづらい印象があるのだ。

 しかし、自転車人口は着々と増えている。あるいは定着したということだろうか。書店に行くと、自転車関連の書籍や専門誌を多数見かける。女性向けのものやコミックエッセイなど、面白おかしく自転車ライフの魅力を語った本もあったりして、確実に間口も広がっているようだ。

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 中でも目立ったのが、小説コーナーの『追い風ライダー』(米津一成:著、安倍吉俊:イラスト/徳間書店)だ。著者は40歳を過ぎてから再び自転車に乗るようになり、ロングライドの魅力にとりつかれたそうだ。だからだろうか、小説に登場するのは未亡人の翻訳家、商社のOL、熟年サラリーマン、沖縄出身のおミズの女の子など一見、自転車と縁がなさそうな人物ばかり。そんな彼らを主人公に5つの短編が繋がっていく。第2話の“ペダルを一漕ぎすれば、その瞬間に「会社の時間」は終わり、二漕ぎ目からは「私の時間」だ。”という表現など、実際に自転車通勤をした人にしか書けない感覚だろう。自転車の魅力に目覚めた頃の新鮮な感動があふれ、自分もそんな解放感を味わってみたくなる。専門書ではなく、小説の言葉から自転車の世界に入っていくのもいいかもしれない。

 より初心者向けの本では、『自転車女子はじめました』(北条 晶:著:イラスト、ドロンジョーヌ恩田:監修/竹書房)が気楽に読めて入りやすい。運動不足解消を目指し、10年ぶりにロードバイクに乗ることを思い立った女性マンガ家のコミックエッセイなのだが、東京近郊のグルメや温泉を巡る旅行的な要素もあり、ずいぶん楽しそうなのだ。車やオートバイでは見えない景色を眺め、全身に風を感じて自然を満喫する。自転車は旅の手段でもあるのだ。

 男性向けでは、玉井雪雄の『じこまん~自己漫~』(日本文芸社)をおすすめしたい。ロードバイクレーサーたちの生きざまを描いた『かもめ☆チャンス』(小学館)で知られる作者だが、本書は自身の自転車遍歴を描いた笑えるエッセイマンガだ。自転車とはまったく関係がなさそうなタイトルだが、「自己満足」とは四十路を越えた男の生きる原動力という意味合い。その究極のアイテムが「ロードバイク」というわけだ。さらに「じこまん度」をアップさせるキーワードが「一生もの」。この魔法の言葉によって高額自転車を購入する理由ができてしまう。ロードバイクのエンジンは「身体」だと言われているが、作者は「身体」こそが究極の一生ものだと考える。日々自転車に乗ることによって身体を管理していると「じこまん度」はますます充実するらしい。メタボ対策や腰痛対策で自転車に乗りはじめるのも案外、正統な理由なのかも。

 自転車の爽やかな風を感じたいなら、『南鎌倉高校女子自転車部』(松本規之/マッグガーデン)というストーリーマンガもある。自転車にすら乗れなかった女子高生が、ひょんなことから自転車部を結成し、どんどん自転車が好きになっていくというピュアな学園ものだ。風光明媚な鎌倉を舞台に、自転車初心者の初々しい感動が描かれ、とってもキラキラしております。

文=大寺 明