『さよなら、韓流』は男性にとって有用なヒントがつまった“モテ本”!?

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更新日:2013/3/6

 男性にとって、女性のカラダというのは大きな関心事のひとつだ。胸の大きさ、お尻の良し悪し、ぽっちゃり派かスリム派か、などなど、そういった下世話なトークで盛り上がるという経験は、誰にだってあるだろう。

 しかし、「逆もまたしかり」ということを、男性はあまり知らない。女性もまた、男性の肉体を値踏みし、その良し悪しを肴にガールズトークを展開している。自分自身、その事実を初めて知ったとき、少なからぬ衝撃を覚えた。

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 韓流とは、そんな“男のカラダ”を女性たちが気兼ねなく消費しているカルチャーだとか。ペ・ヨンジュン、イ・ビョンホン、チャン・グンソク、東方神起、2PM、BIGBANG……日本でもブレイクした名だたる韓流スターたちに共通するのは、鍛え抜かれた筋肉が放つ肉体美。これを女性たちは「エロ」として堪能しているという。

 帯に「なかったことにはできない、女たちの欲望史。」という文字が躍る『さよなら、韓流』(北原みのり/河出書房新社)は、そんな韓流スターの美しさを語り、「韓流はエロである!」と高らかに宣言する1冊だ。

 「180センチ以上が当たり前の長身、厚い胸板、筋肉が美しい二の腕に、太い首の上にはこの上ない甘い顔だ。どきどきするほど男臭が漂う。それなのにちっとも威圧的な感じがしない。柔らかいマッチョ、ロマンチックな肉体美。(中略)日本のアイドルでは喚起されなかった性欲が、韓国男子によって開かれてしまった」

 著者は、これまで『アンアンのセックスできれいになれた?』や『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』(ともに朝日新聞出版)などを書き、女性の自由や欲望について考えてきたコラムニスト。ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』や東方神起のミュージックビデオがきっかけで韓流にハマった北原さんは、以来、新大久保に足繁く通い、K-POPのライブへ出かけ、ソウルに旅行し、各地でファンの女性たちと韓流の魅力について語りあってきた。

 その様子は楽しさに満ちあふれ、韓流が10代から70代までの女性を結ぶ希有なコミュニケーションツールとして機能していることがよくわかる。男性のエロトークが議論や自慢話になりがちなのに対し、「いいよね~」「もうたまらない!」と純粋にキャピキャピ共感できるのが韓流ガールズトークの醍醐味。ちょっとうらやましくなった。

 もっとも、単に「サイコー!」という話だけでは終われないのが韓流というジャンルの難しいところだ。著者には以前、「韓流ドラマ偏重報道」に抗議するデモを批判し、ネット上で叩かれた経験があるが、デモの背景に「メディア批判の名を借りた男の嫉妬」があると指摘したことがバッシングの原因だった。

 もちろんこれは複雑な歴史を持つ日韓関係に根ざした問題であり、容易に語ることなどできない。しかし、女性たちが性欲を解放できるツールをようやく手にした一方で、それに冷ややかな言葉をあびせる人々が多いことは確かだ。好きなものを好きだと言えない息苦しさ……。タイトルに『さよなら、韓流』というネガティブな言葉が採用されているのには、そんな背景がある。

 身近な女性が韓流スターにときめいているのを見れば、確かに複雑な嫉妬心がわき起こる。しかし、韓流を否定したところで女性たちとの溝は深まるばかりだろう。むしろ、女性たちが韓流に感じている魅力、つまり「引き締まった肉体」や「高いコミュニケーション能力」などといったポイントは、そのまま“女性たちが求めていること”と読み取ることができる。

 そう考えると、本書はむしろ、男性にとって有用なヒントがつまった“モテ本”という風に読めるのではないか。カラダを鍛えたり、キチンと相手の話を聞くことは、誰だって心がけひとつでできること。引き締まったカラダを手に入れたら、女性から見られることに恐怖を感じなくなるかもしれない。そんな観点で韓流に向き合ってみるのもおもしろそうだ。

文=清田代表/桃山商事