就職率100%! 東大と肩を並べたと噂の国際教養大学、その教育理念とは?

社会

更新日:2013/3/11

 秋田県の国際教養大学は、この就職難の時代にあって毎年ほぼ100%近い就職率で注目されている。グローバルな時代に活躍できる人材育成を目指した英語教育が特徴であり、生徒は海外トップクラスの大学に1年間の留学が義務づけられている。海外生活で身についた自信と語学力を持っていることが企業にとって魅力なのはたしかだが、それ以上に、「国際社会に挑戦したい」という意欲を持った学生が多いことで評価されているようだ。

 この国際教養大学を創設した理事長・学長の中嶋嶺雄氏が2013年2月14に肺炎により他界された。享年76歳。60代後半から新大学創設に携わり、自身が理想とする大学を創りあげたのだから、あらためてそのバイタリティに感服する。その原動力となる教育理念とはどのようなものだっただろう。

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 世界に通用する子供の育て方(中嶋嶺雄/フォレスト出版)は、幼児教育の大切さからグローバルな時代に求められる人材育成など、中嶋氏の教育理念が語られた1冊。それは、日本の教育に欠けているものを浮き彫りにもする。

 日本では中学、高校、大学と10年以上英語を勉強しても、英語で仕事ができる人材は、毎年の大学卒業生の1%と報告されているそうだ。国際会議で高学歴の官僚が黙りこんでいるのを見て、中嶋氏はこれでは国際社会で日本はますます遅れをとると危機感を持った。

 まず英語教育を根本的に変えなければいけない。ただし、英語が話せるだけでは本当に国際社会で通用する人間とは言えない。豊かな教養を持ってクリエイティブに発信していける力こそ必要だという考えだ。国際教養大学は英語専門の大学だと思われがちだが、授業が全て英語で行われているということであって、実際はリベラル・アーツ(教養教育)に力を入れている。

 「教育」という言葉は「教えて、育てる」という孟子の言葉から来ている。しかし、これまでの日本の教育は「教える」ことばかりに集中し、「育てる」ことをないがしろにしてきたと中嶋氏は指摘する。

 こうした考えは、中嶋氏が幼少期に学んだスズキ・メソードで培われたもの。ヴァイオリン演奏を通して子供の感性や人間性を育もうとする教育法だ。楽譜は用いず、音楽を耳から聴いて覚えさせてから遊戯のように演奏に親しんでいくという。難しい曲に挑戦するより、同じ曲を何度も反復して演奏の完成度をあげる。そうすることで、幼少期に覚えた曲が70歳を過ぎても演奏でき、人生を豊かにしてくれるという。

 これは英語教育にそのままあてはまる。文法主義で英語を学ぶのではなく、コミュニケーションを楽しむツールとして英語を学ぶのだ。英単語も毎日繰り返し覚えることで身につく。英単語を並べるだけでも英語のコミュニケーションは成り立つのだと中嶋氏は言う。

 100%近い就職率の高さで注目されている国際教養大学だが、中嶋氏は「大学は就職のためにあるのではない」と本書の中で語っている。それはあくまで結果であって、本来の目的は、語学を身につけることで自分の世界を広げ、教養を持って豊かな人生を送ってほしいという教育者としての願いが根本にある。若者たちの20年後30年後を見据えた教育機関なのだ。

 そのためにも、これまでの日本の大学とは異なる開かれた大学を創設する必要があった。秋田の雄大な自然のなかにあるキャンパスには塀というものがなく、アメリカの大学を思わせる自由な雰囲気だ。そうした環境を整えるとともに、能力別・少人数制クラス、1年間の海外留学、カリキュラムで芸術科目を重視するなど、きちんとシステムを構築していくことで、学生たちは自ら育っていくものだという信頼があるのだ。

 真剣に日本の未来を考え、大学教育の改革において、やるべきことはすべて実践した偉大な教育者でありながら、その眼差しはやさしい。

文=大寺 明