加藤シゲアキ新刊小説に垣間見える アイドルの恋愛観

芸能

更新日:2013/3/18

 処女作『ピンクとグレー』(角川書店)が12万部を超える大ヒットとなった、NEWS・加藤シゲアキ。2作目となる小説『閃光スクランブル』(角川書店)が3月1日に発売されたが、早くも話題となっている。というのも、今作では女性アイドルと彼女を追うパパラッチが主人公で、知られざるアイドルの恋愛事情が赤裸々に描かれているのだ。

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 AKB48ほど厳密な恋愛禁止ルールはないものの、多くの女性ファンを持つジャニーズアイドルはもちろん恋愛が公になるのは御法度。作中の記述はもちろんフィクションではあるが、本人を含めたアイドルの恋愛事情やリアルな恋愛観を読み手はどうしても連想してしまう。

 たとえば、パパラッチの巧が、年上のスター俳優・尾久田との不倫現場を抑えようと、いまをときめくアイドルグループ「MORSE」の亜希子を執拗に調べるシーン。彼女がインタビューで、好きな映画として「アキ・カウリスマキの『過去のない男』」と答えている記事を発見し、巧は「サブカル好きや映画好きの面影もない二十代前半の女性アイドルが、好きな映画を聞かれてこれを挙げるのはなんだか違和感がある」とパパラッチとしての勘を働かせている。

 日々、雑誌やバラエティ番組などの膨大なアンケートに答えているアイドルたち。新しい出来事を話そう、おもしろいエピソードを話そうとサービス精神を働かせるうちに、無意識に恋人の影響が出ていることも少なくないのかもしれない。作中では「どれほど自己プロデュースを徹底しても綻びはある」と書かれているが、私生活を小出しにするアイドル業において、恋人の存在を消すことは想像以上に神経を使わなければならないようだ。

 もちろんそれには個人の努力だけではなく、所属事務所の協力も不可欠。驚くことに、亜希子と尾久田は連絡先も知らず、互いへのメールを尾久田のマネージャーに送って連絡を取り合うのだ。もちろんホテルに一緒に入ることもなく、カードキーの受け渡しもマネージャーが介在し、徹底して2人の関係は守られる。一般の人から見れば、恋人へのメールを他人に見られることに抵抗を感じる人も少なくないだろう。しかし、亜希子はまったくためらう素振りも見せない。むしろ“アイドルは完全に自由な恋愛はできない”という諦観が伝わってくる。これは多くのアイドルがもっている覚悟なのかもしれない。

 また処女作『ピンクとグレー』にも意外な記述がある。この作品も舞台は芸能界。若手俳優の蓮吾は仕事で忙殺されるうちに、幼少のころから付き合いのあるサリーと別れ、カリスマ的な人気を誇る歌手・香凛と深い仲になっていく。

 「サリーより楽だったのは、僕が白木蓮吾のままでいられたことだった。冷静に白木蓮吾を装っていられた。そしてそのことに彼女も違和感を得たりしなかった。セックスも同じだ。カッコつけたセックスほど楽なものはない」

 一般人からすると、芸能人カップルは互いに素顔を晒して個人の時間を取り戻していると思いがちだが、実際は恋人にも芸能人の顔を見せた方が余計な気を使わなくていいというドライな付き合い方があるのだろうか? このあたりのリアリティは現役アイドル作家ならではの発想だろう。

 年内にも3作目を発売したいと意気込む加藤。本人いわく、渋谷が舞台の長編をもう1作書いて、「渋谷3部作」にするつもり、とのことだが、次の作品も芸能界を舞台に、そこに生きる人の機微を彼の鋭い観察眼をもってつづってくれることを期待したい。