作家・有川浩、舞台『旅猫リポート』の台本づくりに悩む

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更新日:2013/4/6

 『図書館戦争』『県庁おもてなし課』が実写映画化、そして『空飛ぶ広報室』の連続ドラマ化が決定し、今もっとも注目されている作家・有川浩。『ダ・ヴィンチ』5月号ではそのトリプル映像化を記念して、作家・有川浩を大特集。

 そしてもうひとつの実写化、舞台版『旅猫リポート』が公演中であることをご存じだろうか。

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 過去にも有川がタッグを組んだことのある「演劇集団キャラメルボックス」。その看板俳優・阿部丈二とともに有川がみずから旗揚げした演劇ユニット「スカイロケット」の第1回公演が行われているのだ。『ダ・ヴィンチ』5月号では、有川と阿部の対談を掲載している。

 W主宰スタイルの演劇ユニット「スカイロケット」は、2012年7月に始動。第1回公演『旅猫リポート』は本誌発売時、紀伊國屋サザンシアターにて上演中だ(4月3日~7日)。スタッフクレジットは、「原作・脚本 有川浩」「プロデューサー 阿部丈二」。劇場を予約しキャストやスタッフに参加依頼、脚本全編&書き下ろし短編が収録された『副読本』と冠された豪華パンフレット製作など、公演にまつわる事務仕事もすべて、ふたりを中心におこなわれた。原作小説の「猫が語り手」という手法を、どう演劇で表現するのかはそれほど悩まなかったそうだ。そのかわり――。

【有川】 見よう見まねで脚本を書いてみたものを丈二君に送る、読んでもらって打ち合わせする、書き直す、その繰り返しでした。いま第14稿までいったのかな?

【阿部】 舞台化した時のことを考えて、ここはこういうふうにしたほうが演劇的には良いんじゃないか、ここはもう少し膨らませてほしいです、という部分を細かくお伝えしたんです。でも、びっくりしましたよ、スーパーモデルみたいにものすごくスリムな第1稿があがってきた時は(笑)。

【有川】 あはは。私としては尺(上演時間)が心配なので、可能な限り削ってコンパクトにして、と思っていたら、丈二君がどんどん増やしていくんです。「ここの部分を加えてほしいんですけど」と言われてみると、「あれ? 確かにこれ絶対削っちゃいけなかったね」ってなるんだけど。

【阿部】 「私なんでこれ削ったんだろう」とおっしゃってました(笑)。

【有川】 戯曲特有の書き方も最初、慣れなくて。小説家の生理として、カギカッコの台詞だけでページが進んでいくのが、なんだか気持ち悪い。ト書き(台詞以外の指示の部分)を結構しっかり、文章にしちゃっていたんですよね。そこで言われたのは、「セリフと一緒に感情を決められちゃうと、役者はそこから一歩も出られないんです」「余白を俳優に残してほしいんです」って。

【阿部】 できあがった台本だけを見ちゃうと、役者が先生を誤解してしまうと思ったんです。「信頼されていない」「自分たちのやるべき仕事が取り上げられている」と思ってしまうかもしれない。その誤解を防ぐのは、プロデューサーとしての仕事でもありつつ、友人としてのアドバイスでしたね。

【有川】 作家のことを考えてくれてるんだなってことは、わかるんです。でも、納得いくまで時間がかかった(笑)。「一応書いてあるけど、役者さんたちの自由に変えてかまわないよ」と言っているのに、なんでダメなんだろうって。

【阿部】 こっちとしては、「だったら書かないでください」っていう(笑)。役者にとってト書きは絶対なんですよ。「感極まって声を震わせながら」と書いてあったら、絶対そうしなきゃいけないんです。

【有川】 私の中ではまだ若干、“仕事してない”感じがあるなぁ。

【阿部】 いやいや、脚本がないことには世界が始まらないですから!

【有川】 だけど、地の文書いてないもん!

一同 (笑)
※紙面対談記事より抜粋

■スカイロケット 第1回公演『旅猫リポート』
紀伊國屋サザンシアターにて 4月3日(水)~7日(日)公演 ※残席当日券のみ 
プロデューサー/阿部丈二、原作・脚本/有川 浩、演出/白坂恵都子 
キャスト/坂口理恵、岡田さつき、菅野良一、細見大輔、石原善暢、前田 綾、大原研二、阿部丈二

取材・文=吉田大助
(『ダ・ヴィンチ』5月号「有川浩特集」より)