「本屋大賞」を受賞した百田尚樹の過激すぎる出版業界批判!?

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更新日:2013/4/10

 昨日発表された2013年の「本屋大賞」で見事1位に選ばれた百田尚樹の『海賊とよばれた男』(講談社)。出光興産創業者である出光佐三を主人公のモデルにし、戦後、石油を武器に世界と渡り合った男性の、波瀾万丈の人生を描いた作品だ。

 百田といえば、関西の大人気番組『探偵! ナイトスクープ』の構成作家としても有名。第8位には川村元気の『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス)がランクインしたが、川村も既報のとおり、本業は「東宝のヒットメーカー」と呼ばれる映画プロデューサー。他ジャンルで腕を鳴らすプロが小説に参入し受賞ラインナップを彩ったことも、今回の本屋大賞の象徴的な部分かもしれない。

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 さて、そんな百田の特徴は、「一作ごとに異なるジャンルの作品を発表」することにある。デビュー作にしてミリオンを記録した『永遠の0』(講談社)では戦争を描き、『影法師』(講談社)では下級武士の姿を、『ボックス!』(講談社)では高校ボクシング部を舞台にするなど、テーマ設定や切り口の巧みさ。書き手としてのフットワークの軽さは、さすがは構成作家。そして最新刊である『夢を売る男』(太田出版)では、なんと出版界のタブーともいうべきテーマに挑んでいるのだ。

 『夢を売る男』の主人公は、出版社の編集者・牛河原。恐ろしく口が達者で策士の牛河原は、文芸賞に応募されてきた「クズ」と認める作品を、筆者たちに“かかる費用を折半すれば出版できる”“百万部も夢じゃない”と持ちかけていく。カモになるのは、“ジョブズのような世界を変える男になる”が口癖のフリーターや、周りのママ友たちとは違い自分にはすばらしい教育観があると盲信する主婦、自分の人生には他人とは違う生き様があると感じている団塊世代の定年した元会社員……牛河原はそうした「自己表現したい」という欲求を巧みにくすぐり、「俺たちの仕事は客に夢を売る仕事だ」「この商売は一種のカウンセリングの役目も果たしてるんだよ」と言い切るのだ。

 本作は、人びとのふくれあがった自意識にとどまらず、今の文芸界の問題にまで言及する。牛河原は、ソーシャルゲームやインターネットが身近になった現在、「千五百円とか千八百円とか出して読む価値のある小説がどれだけある?」「小説を喜んで読むという人種は希少種だよ。いや絶滅危惧種と言ってもいいな」と一刀両断。そして、小説が売れない理由や作家志望者が増加する背景、作家になっても“食えない”現状などを次々と挙げていき、「ノンフィクションや学術書なら売れなくても出す意味はあるかもしれん。しかし売れない小説なんて、出す意味がどこにある」「文化的に価値が高い? 価値の高い低いなんて誰が決めるんだ」「売れない文芸を私企業が支えている状況は、もっとおかしいぞ」と出版社にも鋭いツッコミを入れている。

 さらに作家の姿勢にも触れ、固定客だけを相手にするのではなく、新しい読者を開拓する必要を説く場面も。そこでは、「元テレビ屋の百田何某みたいに、毎日、全然違うメニューを出すような作家も問題だがな」「まあ、直に消える作家だ」と、自らも俎上に載せている。

 帯には「注意! 作家志望者は読んではいけない!」と打たれているが、その言葉も納得の内容。出版界だけに身を置かない百田だからこそ、本を取り巻く問題点をあぶり出されたともいえるだろう。この刺激的な1冊、ぜひ『海賊とよばれた男』と併せて読んでみてほしい。