WEB官能&BL(08)犬飼のの『銀の指輪~The ring of silver~』

更新日:2013/8/6

官能WEB小説『fleur(フルール)』連載

犬飼のの『銀の指輪~The ring of silver~」

 貧しい村に生まれ、親に強要されて男娼をしていたユリアスは、弟を自分と同じ目にあわせないよう家出した先でフェルナンと出会う。村では「悪魔」と噂されるフェルナンの優しさにユリアスが救われるまでを描いた「銅の足輪~The anklet of bronze~」の続編が登場! 性行為にだけ慣れ、恋を知らなかった青年の、甘くとろける「初恋」の物語。

 

 出逢った夜に満ちていた月が欠け、そして再び満ちた頃、ユリアスは恋人のフェルナンと共に旅に出た。もちろん弟のテオも一緒だ。

 元々は貧しい北の村で暮らしていた兄弟は、実父と継母から冷遇され、逃げるように家を飛びだした。黒い森とも迷いの森とも呼ばれる森でフェルナンと出逢い、「嫁いでこい」と言われたユリアスは、それから一月の間、彼の住む赤い家で暮らした。研究を手伝ったり畑仕事や家事をしたり、弟のテオと遊んだり……そして夜にはフェルナンに愛され、人生で一番幸せな日々を過ごしたのだ。

 それだけに彼の家を離れるのは寂しかったが、この旅には確固とした目的がある。飢饉で命を落とす人がいなくなるよう、新しい食物を普及させるための旅だ。

「──っ、ん……」

 ユリアスとフェルナンは、旅先の宿で声を殺して睦み合う。崇高な目的があろうと、夜になればただの恋人同士だ。同じ部屋で眠るテオの存在を気にしながらも、週に何度か……こうして触れ合わずにはいられなかった。

(……声が……っ)

 誘われるまま一時的に彼のベッドに移ったユリアスは、嬌声を漏らしそうな唇を噛む。

 二部屋取る余裕がないため、旅に出てからは最後まで繋がることがなくなっていた。それだけに余計、愛撫に感じ過ぎてしまう。

「……は……っ、ん……ぅ」

「──ッ」

 触れられるだけではなく、ユリアスもフェルナンの体に触れていた。今は横向きに寝て彼に背を向ける形を取り、きつく閉じた腿に彼の性器を挟んでいる。さらにはその先端に触れて、溢れる蜜を指に絡めた。

「ふ……っ、ぅ……」

 フェルナンの温もりを、ユリアスは終始肌で感じ取る。手や腿だけではなく、腰や背中にまで沁みる熱だ。うなじで感じる吐息まで熱っぽく、情欲を掻き乱される。

 大きな腕に包み込まれながら、胸の突起や反り返る屹立を弄られた。一連の行為はすべて上掛けの中で行われ、テオが急に目覚めても、すぐに誤魔化せる体勢を取っている。

 弟を大切に想うユリアスの気持ちを、彼はよく理解したうえで気を使っているのだ。

「ユリアス……」

「……ん、ぅ……っ」

 耳を舐められながら名前を呼ばれたユリアスは、その甘さに夢見心地になる。フェルナンの声は低音で男っぽく、それでいてぞくぞくするような艶を秘めていた。ユリアスの性器を包む手も、大きさに反して繊細に動く。乳首を揉む指先も器用だ。小さな突起を上手く転がし、摘まみ上げては先端を摩擦する。

「は……っ、ぁ……」

 ぴっちりと閉じた股の間を、彼の熱い物が行き来した。ベッドが軋まないよう気をつけながらも、最後は速く激しく動きだす。

「──っ!」

 張りだした亀頭に双珠をぐりぐりと押されながら、ユリアスは彼の性器を両手で捉え、手で作った筒の中に迎えていた。緩急をつけて強く握ったり撫でたりしながら、挿入した時に近い快楽を与えられるよう意識する。

 しかし気持ちのすべてを向けるわけにはいかず、ユリアスは常に隣のベッドを気にしていた。テオは夜中に起きたりしない子だけれど、絶対ということはない。弟の隣でフェルナンとの行為に集中するのは難しかった。

「──ッ!」

「ん……ぅ、ぁ……っ」

 お互いの手の中に放つ、刹那の悦びと解放感。振り返ればキスをされ、気持ちがよく、とても嬉しい。けれど本当は足りなくて……体の奥が疼いて苦しかった。

 そのくせ何も言えない。男娼上がりであることを気にしているユリアスには、自分から淫らに迫るような真似はできず……ただ控えめに笑って、「もう戻りますね、おやすみなさい」と告げるしかないのだ。

 そうしてテオの寝るベッドに戻る自分を、彼が引き留めてくれないことに淋しさを感じる。それは勝手な話だとわかっているのに、頭の中で描くのは不埒な妄想ばかりだ。

 乱暴に腕を掴まれ、「行くな」と言われたい。組み敷かれて、「駄目……やめて」と言っても聞いてもらえず……滅茶苦茶に貫かれたい。

 ベッドが激しく軋む音を聞きながら自分は焦り、それでも快楽に呑まれて……最後にはテオのことを考えられなくなるだろう。実際には困るのに……そのくらい求められたいと願いながら、ユリアスは元のベッドに戻る。

「──おやすみ」

 穏やかで、幸せだと思った。でも足りない。

 今からでもいい……もう一度「来いよ」と誘って欲しい。もしくは突然上掛けを捲り、忍んできて欲しい。満たされない体の奥に、自分でも信じられないほどの熱が燻っていた。