微笑ましい迷走と爆発。10代のリアルを描いた思春期マンガたち

マンガ

更新日:2013/4/18

 今、東村アキコの自伝的コミック『かくかくしかじか』をはじめ、大人読者を唸らせる“思春期マンガ”の秀作が相次いで登場している。そこにあるのは、10代の少年少女のリアルな奮闘の記録。虚飾を排した生々しい感情と迷走、そして確かな希望の光……。『ダ・ヴィンチ』5月号では、一見静かだけれど、根底に果てしない爆発力を秘めた思春期マンガを特集している。

 

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 思春期とは何かと考えると、明確な答えが難しい。自意識の拡大、周囲と自分への客観的視点の欠如、何かをしたいがエネルギーの放出先が皆目不明……。そんなモヤモヤした空気全体が、思春期ではないか。

 次に紹介する3作品は、そういった思春期の有り様を見事に捉えている。『ハイスコアガール』(押切蓮介)のハルオは、晶に惹かれているのについついゲーム優先。彼の遠回りな恋は、ゲームを知らなくても楽しめる。『ぼくらのフンカ祭』(真造圭伍)の富山は、周囲に違和感を感じる繊細な少年だが、自分の価値観をどう行動に移していいのかわからない。本当に好きなのは絵なのに、恋に目がくらんでダンスを始めたりしてしまう。『かくかくしかじか』の明子は、自分は絵が素晴らしく上手いと信じるのん気さがかわいい。

 神は細部に宿る。3作品は、舞台設定やストーリー、人物の言動など、さまざまな点で丁寧にディテールを積み重ね、独特の空気感の表現を可能にしている。作者の素晴らしい才能と力量だ。

 恥ずかしくもイタかゆい。主人公たちの思春期ならではのエネルギッシュで微笑ましい迷走に、私たちは大いに共感する。

 

 ■『ハイスコアガール』(1~3巻) 押切蓮介 スクウェア・エニックス ビッグガンガンCスーパー
 1991年、格闘ゲームブーム到来。場末のゲーセンに入り浸る6年生のハルオは、何の取り柄もないがゲームにだけは自信がある。しかし彼の前に、なぜか同級生の美人お嬢様・晶がいた。彼女の驚異的な強さに、ハルオは尋常でないライバル心を燃やし!?

 ■『ぼくらのフンカ祭』 真造圭伍 小学館ビッグスピリッツCスペシャル
火山の噴火で一躍人気温泉街になった金松町。今のこの町は何か違う。その節度のない変化に、高校生の富山はうんざり。一方、親友の桜島は能天気にノリノリ。町をあげてのお祭・フンカ祭の開催でさらに周囲は盛り上がり、富山のモヤモヤはつのるばかりで……。

 ■『かくかくしかじか』(1巻) 東村アキコ 集英社愛蔵版C
宮崎に住む高3の林明子。夢は少女マンガ家。美大受験のため絵画教室に通うが、そこには体育会系鬼教師・日高先生がいた! 手には竹刀、容赦のない罵詈雑言。うぬぼれを粉々にされ反発を覚える明子だが!? 東村のルーツが明らかになる、自伝的青春奮闘記!

 取材・文=松井美緒
(『ダ・ヴィンチ』5月号「コミック ダ・ヴィンチ」より)