サブリミナル効果は真っ赤なウソだった!? 偽科学・珍学説の数々

科学

更新日:2013/4/19

 「サブリミナル効果」。人が知覚する意識と、知覚しえない潜在意識の境界領域より下に刺激を与えることで表れるとされている効果のことで、映像などで人が認識するかしないかのギリギリの瞬間に意図的なメッセージなどを挟み込むという方法がよく知られている。しかし、なんとこれ、科学的確証のない、いわゆる偽科学らしいのだ。

 そんな情報や、いまだに信じられている珍学説などの情報満載の本が、3月に出版された。それが『図説偽科学・珍学説読本』(グレイム ドナルド:著、花田知恵:訳/原書房)だ。

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 たとえば、前述したサブリミナル効果について。これを広めたのは市場調査の専門家ジェイムズ・ヴィカリー。彼は1957年のニュージャージー州フォトリーの映画館において密かに行なった実験で、すばらしい結果が出たと発表した。その実験が、いわゆる「サブリミナル効果」そのもので、観客に「コカ・コーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」と指示するフラッシュ映像を混ぜた映画を見せ、その結果、映画館のロビーでコカ・コーラとポップコーンの売り上げがグンと伸びたと、広告業界の大物や製造業者などに伝えたらしい。ここまでは、有名な話である。しかし、本書によれば、1962年にヴィカリーは「サブリミナル効果」はペテンで、破綻しそうな自分のコンサルタント業を救済するためにでっちあげた、と認めたという。

 アメリカ式ならばReally!? 日本式ならば本気(マジ)で!? という声をあげたいところ。というより、そんなに早くから「嘘」だと認めているのに、なぜ未だにみんな信じているのだろうか。なんとじつは、ヴィカリーのその声は無視されたというのだ。その理由としては単純で、「サブリミナル効果」があまりにも、人々の間に広がりすぎていたからだという。ひとりの声は、多数の前では黙殺されるという、なんとも怖い例である。ちなみに2006年の調査によると、アメリカ人の約80%が未だに「サブリミナル効果」の不気味な力を信じているらしい。

 でも、なぜそんなにも、人は偽科学を信じてしまうのだろう。興味深い話が本書に載せられている。

 今や地球は球体だということが当たり前になっているが、昔の人々は「地球? 平面だろ」と本気で信じていた。いわゆる「地球平面説」である。その信者のひとりにマルティン・ルターがいる。ドイツの宗教改革者で、歴史に残る、超重要人物のひとりだ。そんな彼が、地球平面説を信じた根拠、それは「全人類は最後の審判の日にキリストの再臨を目撃することになっているのに、もし万が一世界が球体だったら、世界の半数以上がそれを見られないではないか」というものだった。

 もうなんというか、たいしたソースでもないのに、こんな偉い人に血走った目で、前述したようなことをまくしたてられたら、だれでも信じてしまうのではないだろうか。きっとそんな感じで、偽科学や珍学説が広まり、それを信じてしまう人が後を絶たないのかもしれない。

 しかし、そんな偽科学もときには最悪の事態を引き起すこともある。本書によれば、その偽科学とは「骨相学」。その創始者ともいわれるフランツ・ヨーゼフ・ガルの理論によると、脳は27個の部位の集まりで、それぞれが特定の機能、気質、性格に関わっているという。そしてそれらは使えば使うほど肥大化する、ちょうど筋肉を鍛えると太くなるといった具合にだ。ここまではまだ的外れでもないらしいのだが、彼の過ちはここからさらに理論を飛躍させたことにあるという。それは、活用頻度の高い器官が頭骨を押し上げるため、頭の凹凸を調べれば性格がわかるというもの。これは20世紀以降では否定された理論であるのだが、ルワンダにおいて、最悪なかたちで利用されることになる。その発端となったのが、骨相学者でありルワンダを支配していたベルギーの国民的著名人であったポール・ボウツ。彼は国中の監獄や病院を訪問し、手製の器具を使って、患者や囚人の頭を調べたという。その結果をもとに誰が正常で、だれがそうでないかについて怪しげなレポートを提出したというのだ。彼の器具は、ルワンダにおいて、ベルギー植民地局の手で使用される、そこで、頭の凹凸をちょちょっと調べただけでツチ族がフツ族より優れた種族であると判断してしまい、優劣の差をつけてしまった。そしてそれが「ルワンダ大虐殺」に繋がったらしいのだ。この事件による被害者はおよそ50万人から100万人の間といわれている。なんとも恐ろしい話である。

 ほかにも、コカインやアヘンはかつて万能薬としてもてはやされ、赤ん坊にも大量処方されていたなどという話から16世紀初めから19世紀にかけて欧州ではタバコの煙による浣腸が流行していたという話、さらには地球空洞説やミッシングリンクなどのオカルトな話にも言及されているので、これらの言葉に反応してしまう人はぜひ手にとってみてはいかがだろうか。