異端作『機動武闘伝Gガンダム』のコミックが島本和彦ワールドで激アツ!

マンガ

公開日:2013/4/23

  『機動戦士ガンダム』は、度重なる続編やスピンオフ作品によってその世界観を拡大させ、世代ごとにファンを増やすことで、現在まで長い間人気を維持している。その中には、本筋とは設定がまったく異なるパラレルワールド的な世界を描いたものまで登場している。特に衝撃的だったのが、1994年にアニメが放送された『機動武闘伝Gガンダム』だ。

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 Gガンダムは、それまでのシリーズのような続編やスピンオフという類とはまったく異なる新機軸を打ち出した最初として知られている。タイトルでわかるように“格闘モノ”のガンダムである。宇宙に進出したコロニー国家間の抗争を各国代表のガンダムに託し、地球をリング代わりに開催される「ガンダムファイト」によって決着をつける、というぶっ飛んだ設定にもとづいて展開していくストーリーは、これまでのリアルテイストな戦記ものとはあまりにもかけ離れており、旧来からのガンダム好きの間では賛否が大きく分かれた衝撃作だった。

 それが今、15年以上の時を経て2010年よりコミカライズされており、『月刊ガンダムエース』(角川書店)で連載が続いている。

 タイトルは『超級! 機動武闘伝Gガンダム』(角川書店)。基本的な流れはアニメ版を受け継いでいるが、随所にオリジナルストーリーなど加えられており、単行本は現在までに全7巻、さらに新章突入により『超級! 機動武闘伝Gガンダム 新宿・東方不敗!』(島本和彦:著、矢立 肇、富野由悠季:その他/角川書店)とタイトルを改めたシリーズが6巻まで刊行されており、最新第7巻が4月26日に発売の予定だ。

 この作品を主に手がけているのは、島本和彦(漫画)と今川泰宏(脚本)のコンビ。島本といえば熱血マンガを数多く生み出している漫画家として知られた存在であり、今川はアニメ『Gガンダム』の監督を務め、その後も『天元突破グレンラガン』など、同じく熱血系の作品を数多く手がけている。

 実は、当時アニメのキャラクターデザインを島本が担当しており、今川がストーリーを考えているとなれば、当然のことながらコミックとアニメの空気感にはまったくブレがない。その意味において、コミックは『Gガンダム』の真性版と言っても差し支えないだろう。

 とはいえ、そこは島本流。デビュー作の『炎の転校生』(小学館)に始まり、『逆境ナイン』、『燃えよペン』(ともに小学館)など、大胆なコマ割りで小さなことでも大げさにする暑苦しいほどの熱血描写のコントラストを成す要素として、少しとぼけた可愛げのあるギャグが必ず入る。主人公のドモン・カッシュは、アニメでは最初から最後まで熱血一筋、泣くことや驚く際にも凛とした姿勢は崩さなかったが、島本が描くコミックでのドモンは、中華料理を嬉しそうにドカ食いしたり、ツッコミにシドロモドロする一面を見せている。このあたりは、島本独特の人間味あふれるテイストだ。

 そしてもうひとつ注目なのがメカの描写。現在はアニメにおける中盤に差し掛かったあたりまでストーリーが進んでいる状況で、このまま同じ流れで向かって行くなら、ドモンの兄であるキョウジ・カッシュと、彼が持ち去ったデビルガンダムをドモンが追うという本筋に平行する形で「ガンダムファイト」がさらに白熱していくことになる。

 何しろ格闘をメインとするガンダムである。他のガンダム作品と共通している要素は、“ガンダム”と呼ばれる人型のロボット兵器(モビルファイター)が登場するということのみ。各国のイメージやパイロットの特徴を模して作られたガンダムが、それこそ国の数だけ出てくることになるだろう。

 そのネーミングやデザインがこれまたビックリ! ネオチャイナ代表の両腕が龍のようにしなやかに伸びて動くドラゴンガンダムなどはまだノーマルで、胸の巨大な風車を回すネオオランダ代表のネーデルガンダムや、巨大な釣鐘の形をしたネオネパール代表のマンダラガンダム、腰から下が海賊船の形になっているネオノルウェー代表のバイキングガンダム等々、いくら国の個性を具現化したとはいえ、実際、ガンダムの体をなしているのはほとんど顔くらいしかないものも多かった。それをコミックとしてどういう形で描くかも、興味深いところだ。

 いずれにせよ、好き嫌いが激しく別れるこの作品。全面的にリスペクトする人もいれば、ガンダム作品として認めないという人も中にはいるようだが、これもひとつのガンダムワールド。もし長い間拒絶していた人がいるようなら、コミックを読むことから作品に入るのもいいだろう。

 10年以上の年月の経過によって、当時とはまったく違う世界が見えるかもしれない。

文=キビタキビオ