こんな「昭和のノリ」はもうナイ。だからウケる『団地ともお』

マンガ

更新日:2013/4/26

 この春からNHKで『団地ともお』(毎週土曜午前9時30分)のアニメが放送されている。原作マンガ(著:小田扉)は『ビックコミックスピリッツ』(小学館)で長年連載されており、単行本は最新で21巻を数える作品だ。

 物語の舞台はなんとなく「昭和」を連想させる枝島団地という大規模団地。その29棟で生活する“ちょっとおバカさんだけど毎日を一生懸命過ごしている”小学4年生・木下ともお(友夫)を主人公に、彼の家族や友だち、周辺の住民とのコミニュケーションを中心とする日常が描かれている。

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 そのストーリーは、基本的に1話完結で、ともおのエキセントリックな感覚や行動に対して、周囲の人が怒るよりもむしろ憐れみを込めたツッコミを入れる展開が多い。だが、時折ツッコミを入れている側も、「とはいえ、自分だって…」と逆に反省したり、ともおの屈託ない感覚に新鮮味を感じて影響されたりすることなども。話の展開は毎回一筋縄ではない。

 注目すべきなのは、ほとんどすべてのストーリーが団地内のコミュニティの範囲に収まっているということだ。しかも、そのコミュニティーの拡がりが現代社会ではあり得ないくらいに広い。

 ともおの同学年には、親友と言っていい吉本やよしのぶ、ほかにもケリが強いという理由で「ケリ子」とあだ名されている景子など、クラスの友達が多数いるが、それ以外にも、いつもライバル意識旺盛な隣のクラスの面々がいて、野球やサッカー、その他の遊びでしょっちゅう張り合っている。

 だが、団地内の交流はそんな範囲ではとても収まらない。ともおは父が単身赴任で普段家にはいないが、母・哲子と中学2年の姉・君子がいて、彼女たちの交友についても数多く描かれている。

 それ以外にも、6年生の佐山姉弟(双子)をはじめとする他学年の子ともしょっちゅう交流しているし、高校生の青戸さんや、コンビニでバイトしているお兄さん、おなじ棟の寡黙な頑固オヤジこと島田さん、受験勉強に一生懸命だけど成績の上がらない高校生の青戸さんなど、すべてを挙げたらキリがないほどの団地(やその周辺地域)の住民が登場し、さまざまなネットワークによる交流が描かれているのだ。ともおが立ちションしていれば周囲の住民に怒られるし、ともおが転んで泣いていれば声をかけておぶってくれる。団地内の住民と家族同様のやりとりが交わされるのである。

 こうした家族の枠を飛び越えた交流は、昔はたくさん存在していたこと。もちろん今でも全国を探せば残っているところはあるのかもしれないが、すっかり見られなくなった「昭和」くさい光景だ。団地で生活した経験がない者が読んでも、不思議と郷愁が感じられるのは、そうした点とおそらく無関係ではないだろう。

 また、ともおといつもいがみ合ってばかりのケリ子との会話をとってもそうだ。

 ともお「どっかいけバカ!」
 ケリ子「ヴァーカ!」
 ともお「はじめにバカ言ったヤツがバカー!」
 ケリ子「じゃああんたじゃんバカー!」

 現代ではほとんど絶滅したとも思われるやりとりだが、2人はそんなことを言い合いながらも妙なところでフィーリングの合う部分があり、クラスやグループ単位で行動するときは一致団結して協力し合うこともある。奇才・小田扉の画風による独特のゆるい雰囲気も相まって、こういうやりとりひとつひとつに妙な懐かしさが湧いてくる。

 とはいえ、この『団地ともお』。全巻を通して何かを訴えるようなメッセージ性のようなものは特に感じられない。また、登場人物たちのスッとぼけた言動に「クスクス」となる場面は随所にあるが、大爆笑するような笑いの瞬発力があるか? と問われると判断に迷うものがある。前出の「昭和」の郷愁にしても、それっぽいところは多々あるけど、たとえば『三丁目の夕日』(西岸良平/小学館)ほどノスタルジックの空気を強力に醸し出しているというほどでもないし……。実際、これほど「昭和」チックな描き方をしていながら、ともおの友達の多くが塾や習い事に勤しんでいたり、TVの地デジ化が話題になったことがあるなど、時代設定は立派に「現代」なのだ。

 一度ツボにハマると、逆に深夜ラジオを聴いているときにツボにはまるがごとく、描いてあることすべてがおかしく感じられ「クスクス」とした小さな笑いが止まらなくなることも。さらに、時折ともおや他の登場人物たちが見せる、日常生活にありがちな普通の優しさが覗くシーンでは、危うくホロッとしてしまいそうになることすらある。

 これはひょっとすると、日常社会に疲れた現代人に対し、現代と「あの頃」の雰囲気がミックスされた「些細な日常」を繰り返し描写することによって、漢方薬のような「じわじわ」効いてくる面白さを享受している作品なのかもしれない。

 そう思うと、2003年から連載が始まって10年後の今年になってアニメ化されたというのも、なんとなく頷けてきた。

文=キビタキビオ