もしも女子中学生が独立国を作ったら……

マンガ

公開日:2013/5/5

 国というものは、作り上げるのも、維持していくのも難しい。日々のニュースを少し見るだけでも明らかだろう。大の大人たちでも難しい、国づくりを、少女たちが行うという、前代未聞のマンガが登場した。それが4月12日に発売された『少女政府 ベルガモット・ドミニオンズ』(高田慎一郎/ほるぷ出版)だ。

 女子中学生の島津ななこはある日、突然意識を失う。目覚めたとき、彼女の前には妖精たちがおり、彼らが新たに移住した島「ベルガモット」の「独裁者」になってくれと土下座しながら頼まれる。ななこは突然の話にとまどうばかりだが、否応なしに、ベルガモットへと連れてこられてしまう。妖精の呪いをかけられ、島から出られなくなってしまったななこは、彼女より先に島にきたという少女「ソフィア」、そして後に、ななこと同じように妖精たちに連れてこられた世界各国の9人の少女たちとともに、いやいやながら国づくりをはじめることになる。ベルガモットの存在を許さない妖精王が統治する敵国「アヴァロン」が差し向ける巨像の妨害をはじめ、国づくりをする上で積みあがるさまざまな問題に、女の子たちは奮闘することに……。

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 ななこたちが参考にするのは「公民」の教科書で、つたないながらも国を作り上げていこうとするのだが、何しろ「ベルガモット」には現実には当然のようにあるはずのものがない。それもそのはず。妖精らは森で暮らし、独自の文化を築き上げてきたのである。そのため、ななこは電気や水道などのインフラ整備に着手しようとする。そして同時に外貨獲得のための手段として、妖精たちが「勝手に生えてくる」と言ったサトウキビを栽培しはじめる。しかし、その前には問題が山積み。産業の発展支援やら農地法やら行政区画やら、もう見ているこっちの頭がパンクしそうになってしまう。しかし、それらの案件を進める前に、やっておかなければならないことがあった。それが、舗装路の整備。往来がよりよくできるようにというのも目的だが、荷物の運搬速度などにも関わってくるため、整備を先にやっておくことで、あらゆる作業のスピードが上がるのだ。うむ、すごく勉強になる。

 さて、舗装路が整備でき、水道を通すことにも成功したななこたち。しかし、そこにつきまとってくるのが、作業をした人たちに対しての報酬はどのようにするか、というもの。妖精たちは基本的に物々交換で営みを作り上げてきた種族。だが、ななこたちには、交換できるほどの物資はない。そこで出てくるのが「お金」という概念。そう、貨幣システムを妖精たちに広めていかなければならないのだ。

 しかし、そうはいっても物々交換のシステムで生きてきた妖精たちに、貨幣の存在を認識させるには、どう考えても困難。そこでななこたちは、3種類のお金の価値「交換の手段」「価値を決める尺度」「価値を貯める・保存する」のなかの「価値を貯める・保存する」に着目。妖精たちが開いている市に出かけ「今日中にこの肉を交換しないとダメになっちゃう」と嘆くおばあさんに対し、できたばかりのお金を渡し国で買い取ろうとする。それを見ていた別の肉屋も「お金は腐らないものな」と、肉をお金で販売することに。その波は瞬く間に広がり、市にはお金と品物が行き交うようになる。ここで重要なのが、「お金」をななこたちがいる城に持ってくればレートに応じた物品との交換を保証すると、店の主人に話したところ。そう、お金は「信用」がなくては成り立たないのだ。「お金」自体に価値があるのではなく、その裏にある「信用」に価値があるのである。うむ、勉強になる。

 道路も作り、水道も引き、お金もできた。さあ国づくりも波に乗ってきたかという矢先に、一部の妖精たちによる反乱が起こる。ななこたちの退任を要求するクーデターグループに対して決断を迷うななこ。そんな彼女たちの前に、タイミング悪く「アヴァロン」の巨像が出現する。

 ここで1巻は終わってしまう。クーデターはどんな結末を迎えるのか、彼女たちの国づくりはどうなっていくのか。非常に続きが気になるところだろうが、2巻が出るまで、おあずけだ。

 国をつくるということがどれほど大変なものかを、わかりやすく教えてくれるこの作品。将来独立国を作りたいと思っている人には、とてもオススメだ。まあ、そんな人がいるのかどうかはわからないのだが。