【第4回】 菅野結以の“ことば結い” フラワーカンパニーズ『深夜高速』

更新日:2013/8/6

 同年代の女子から圧倒的な支持を受ける人気モデル・菅野結以が、好きな本や映画、音楽の一節などからお気に入りの言葉をチョイス。自身のエピソードをまじえながら綴っていくコラムです。
毎月第2・4木曜日に更新予定!


菅野結以_ブランコ

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何年前だったかなあ。
とにかく、毎日時間がなかったんです。

朝日の出る前に家を出て、夜仕事を終えてやっと家に着いたと思ったら、次に家を出るまではもうあと数時間。その頃は寝る時間もほとんどなかったし、浮腫んだ体とぼーっとした頭で納得のいく仕事なんてできるはずもなくて、毎日毎日悔しい思いをしていました。

カメラの前に立って精一杯の笑顔をつくる、それでも必ず言われる「もっと笑って、笑って!」。

明るく放たれるその声がスタジオの中に響くたび、自分の中の本当の自分が少しずつ死んでいくような気がして。

それでも一度立ち止まれば簡単に置いていかれてしまいそうで、その時はせわしなく過ぎていく日々に必死でしがみついていくしかなかったんです。忙しいという字は心を亡くすと書くけれど、あの頃の自分を思うと本当にその通りだなあと深く納得。

その日も仕事を終えてくたくたの体で部屋に帰り、「わたしは一体、何のためにこんなに頑張っているんだろう?」と虚しくなる心を放置したまま、次の日の持ち物を準備していた時のこと。ふとつけていた深夜のラジオから流れてきた曲の歌詞に、ドキッとして手が止まってしまったんです。


深夜高速

『深夜高速』

フラワーカンパニーズ/Trash Records

日本のバンド・フラワーカンパニーズの16枚目のシングル。ラウドなアレンジのフォーク・ソングで、2009年にはバンド結成20周年記念として、この曲のみを13組のアーティストがカバーしたトリビュートアルバム「深夜高速 -生きててよかったの集い-」も発売された。


 

【Yui’s Choice】
青春ごっこを今も 続けながら旅の途中

 

吐き出すように歌われるその言葉に、おまえのことだよ、と言われている気がしてハッとした。

大人になっても青春ごっこを続けていくことを選んだのは、間違いなく自分だったから。安定した収入や規則正しい生活とひきかえに、自分の好きなことを追いかけたまま子どものように夢を見ながら生きている。

自分の選んだ道を後悔なんてしていないけど、この生活の先に一体何が待っているのか?楽しむ余裕なんてないまま、いつまで続くのかもわからず足早に過ぎていく日々も、気付けば一瞬のうちに年をとっていくことも、怖くて不安で仕方がなくて。

そしてその後に続くサビで繰り返されるとてもシンプルな言葉に、ずっと心の隅の方に押し固めて見えないようにしていた感情のかたまりを、ぱんっと撃ち抜かれたような気がしたんです。
 

 
 

【Yui’s Choice】
生きててよかった そんな夜を探してる

 

そんな夜を、探してるんでしょ?って同志に肩を叩かれたような、強くて優しい感触がした。

絶望のすぐ近くからほんの少しの希望へと手をのばすように叫ばれるこの言葉は、どんな「頑張れ、負けんな」よりもずっとリアルに響いて、しばらく涙が止まらなくなってしまったんです。

曲が終わってDJが告げた「フラワーカンパニーズの深夜高速」というこの曲はそれ以来何度となく聴くことになる、わたしにとってとても大切な一曲となりました。

そしてそれは自分で選んでかけた訳でもなく、たまたまラジオから流れてきた曲だったという偶然性が奇跡のように感じられたことも大きかったような気がする。

なんだか、世の中捨てたもんじゃないなって気になったんです。

大袈裟だし単純だけれど、ひとりぼっちで戦っているような気がしていたところへ運命的に味方が現れた感動は、それくらい大きかったりするんですよね。

ラジオってすごいなあ。今日もどこかで運命の出会いを生んでは、誰かを救っているのかな。
そう思うと、ラジオってなんてドラマチックで夢のあるメディアなのだろうと思う。

それからわたしはそれまで以上にラジオをよく聴くようになって、いい音楽と出会うたびにメモをしたり、調べてはCDを買いに行ったりするようにもなりました。

そしてわたしは今、TOKYO FMでラジオのパーソナリティをやっています。約2時間の生放送を、週2日。あの頃の自分と同じように、ラジオの前には今日も無数のひとりぼっちがいるはずで、そんな一人一人にちゃんと届くようにとこころをこめて曲をかけています。

たった一曲との出会いが目の前の景色をガラッと変えてしまったり、絡まってた糸がすっと解けるきっかけになったり、特に弱っている人にとっては音楽って魔法にもなってしまうからね。

自分がそれに救われてきたように、今度は誰かにとっての大切な一曲との運命の出会いを提供できていたらいいなあ。今ではそんな新たな夢までできてしまったから、わたしはまだまだ旅の途中です。

 

『深夜高速』はさまざまなアーティストにカバーされている。
アコースティックな湯川潮音バージョンも味わい深い(編集部)

 

 
 

菅野結以_ブランコ

かんの・ゆい●1987年、千葉県生まれ。モデル活動のほか、東京FMやINTER FMの番組でラジオパーソナリティ、映画評の執筆連載、自身のコスメブランドのプロデューサーを務めるなど活動は多岐にわたる。公式ブログ:http://ameblo.jp/kanno–yui/ twitter:@Yuikanno

菅野結以の追加ショットはこちら>>(その1)(その2)