女性手帳じゃ効果なし!? うらやましすぎるフランスの育児事情

出産・子育て

更新日:2014/1/29

 いま、内閣府が導入を進めている「生命と女性の手帳」(仮称)、いわゆる「女性手帳」が、ネット上で大きな非難を浴びている。少子化の要因となっているとされる“晩婚・晩産化”を食い止めるべく、この手帳で「30歳半ばまでの妊娠・出産を推奨し、結婚や出産を人生の中に組み込む重要性を指摘する」というが、果たしてこのようなもので出生率は上がるのだろうか。そこで今回は、「子どもが生まれる先進国」といわれるフランスのケースを、『なぜフランスでは子どもが増えるのか フランス女性のライフスタイル』(中島さおり/講談社)から読み解いてみたい。

 たとえば日本の場合、出産を踏みとどまる女性のなかには「仕事を続けたいけれど育児と両立する自信がない」という人も多いだろう。待機児童の問題もあり、日本では働きながら育てることもひと苦労の状態だ。では、フランスではどうか。こちらはなんと「3歳児からの保育学校全入」という制度がある。保育学校というのは、小学校に上がる前の準備をする教育機関のこと。母親は子どもが3歳になるまでは育児休暇を取り、その後は公立学校に無償で託すことができるのだ。これはママたちが助かるだけではない。自治体としても、歴史的にフランスの保育園は医療サポートを完備したシステムであるため“保育園の収容数を増やすよりも保育学校に就学させてしまったほうが経費は安く上がる”というのだ。また、そもそもフランスは週労働時間が35時間で、休日出勤も「よほどのことがない限りしない」。日本とは働き方の意識が違うため、子どもとの時間もつくりやすい。ちなみに、1950年生まれ以降のフランスの女性たちは結婚や出産では仕事を辞めないため、専業主婦の存在そのものが「ほとんど壊滅状態」にあるという。

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 また、女性手帳は“30代半ばまでに結婚・出産することが望ましい”としているが、出生率の高いフランスの場合は、結婚率と出生率につながりはない。むしろ、子どもを産む若いカップルは「結婚していないほうがマジョリティ」であり、2006年には新生児の婚外子率が50%を超えたという。フランスでは、結婚をしても夫の姓に変えず自分の姓を選ぶことができるし、税制や社会保障上も、日本の配偶者控除のように「結婚しているほうが優遇される」ということもない。すなわち、結婚してもしなくても変わらないのだ。

 結婚に代わって、いまフランスで流行しているのは、「パックス」という“民事連帯契約”。99年の導入当初は同性愛カップルに「法的な保護を与えるというのが主眼」だったが、いまではパックスを結ぶ8割近くがヘテロ(異性愛)のカップルだそう。パックスがこれほどまでにウケているのは、「一方が嫌いになっただけで一方的に簡単に解消できる」点。「慰謝料や養育費はもらえるの?」と心配する人もいるかもしれないが、そういう考え方は「女が自立していない」から出てくるもの。女性にも経済力があるフランスでは、“愛がなくなった相手と生活のためにいっしょにいるなどというのは言語道断”なのだ。

 しかし、同じように結婚する人が減少している日本とフランスでも、その理由は大きく違う。フランスは「結婚してもしなくても同じ」状態であるのに対して、日本は「結婚するのとしないでは全然違う」からだ。日本の場合は、“夫は働き妻を養い、妻は家事と子育てに専念”という「家制度」的なモデルに社会がどうしても影響されがち。それゆえ「経済力のない男性や仕事に専念したい女性」は結婚に躊躇してしまうのではと指摘している。

 また、フランスも日本と同様に若年の失業率がとても高く、非正規雇用などの不安定雇用が増えている。が、フランスでは派遣労働者でもパート労働でも、同じ仕事であれば正規雇用と同じ報酬が支払われる。日本では不安定労働者の増加も少子化のひとつの原因と考えられるが、フランスと同等の条件であれば、それがネックになることも少ないかもしれない。

 このような事情はもちろんのこと、フランスが少子化対策に成功したのは、家族政策やキャリアと家庭を両立するための両立支援政策が功を奏したからこそ。女性、そして男性が結婚・出産に至らない事情をフランスと比較していくと、日本の結婚や出産、育児にまつわる問題は、さまざまな社会制度、政策の弊害によって起こっているということがよくわかるはずだ。ただ「結婚しろ」「出産しろ」というのは容易いが、では結婚・出産がしやすい社会をどのようにつくるというのか。相手には言いっ放しで、自らは顧みない。女性手帳にバッシングが集まるのは「さもありなん」ではないのだろうか。