売春は“暗黙の了解”。橋下徹問題で話題の「飛田新地」とは?

社会

更新日:2013/6/5

 橋下徹・維新の会共同代表による「慰安婦は必要」発言に端を発し開かれた日本外国特派員協会での会見。その際、イタリア人記者からの質問に答えるかたちで、橋下が弁護士時代に大阪の歓楽街である飛田新地の組合の顧問弁護士を担当していたことを認め、話題となった。

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 橋下は「それは“料理”組合、(中略)料理組合自体は違法ではありません」と説明したが、その後、ジャーナリストの田中龍作からは「飛田が売春の街であることは、大阪のませた中学生なら誰でも知っている」と追及の声も。橋下は取り合わなかったが、しかし、多くの人は「飛田とは一体どんなところなのか?」と気になったはず。

 そこで紹介したいのが、ルポライターの井上理津子がまとめた『さいごの色街 飛田』(筑摩書房)だ。2011年に発売され、ノンフィクションとしては異例のヒット作となった本書は、著者が12年間をかけて“撮影一切NG”の飛田新地を取材した労作である。

 まず、飛田新地というのは、大阪市西成区にある「色街」で、「約160軒の店が軒をつらねている」という。店の中には客引きのおばさんと、派手な照明に照らされた女性が鎮座。客として入店した男性たちの発言によると、その2階の部屋で女性と“本番行為”を行っているようだ。これらの店は「料亭」として登録されており、その組合が、橋下が顧問弁護士を務めていた「飛田新地料理組合」というわけだ。

 これは風俗店じゃないの? と疑問をもつ人もいると思うが、表向きはあくまで「料亭」。本書によれば「曳き手おばさんの言う“にいちゃん、遊んで行ってや”の“遊び”とは、料亭の中で、ホステスさんとお茶やビールを飲むこと」。「その中で、偶然にも“ホステス”さんとお客が“恋愛”に陥る。恋愛は個人の自由。恋愛がセックスに発展することもあるが、それは決して売春ではない」というシステムであるらしい。このことは「ちょっとませた中学生」のみならず周知の事実で、本書でも小学6年の子どもが“料亭の商売内容”を「そら知ってるわ」と返答。また、著者は地元の警察にも取材しているのだが、料亭の2階で何が行われているかは「察しがつく」と言い、「被害者からの通報がないと我々は動けない」と述べるなど、もはや警察との間でも“暗黙の了解”になっているようだ。

 もともと飛田は、明治から続く遊郭だった。が、1947年(昭和22)に廃娼令が施行され、「赤線」と呼ばれる「警察が地域を限って許した売春地域」に。1958年(昭和33)には売春防止法が完全施行されるが、その後、飛田は紆余曲折を経て、現在の「料亭」システムを考案したという。本書では、飛田で生きる経営者や料亭で働く女性、客引きのおばさんなど、さまざまな人々へ取材を試みているが、そこから見えてくるのは「貧困の連鎖」である。遊郭や赤線時代には、女性たちは家族の借金などの事情から身売りされてきたが、いまは「他の職業を選択することができないために」この地で働いているという。他の職業を選ぶことができないのは「連鎖する貧困」に抗えないから。「抗うためのベースとなる家庭教育、学校教育、社会教育が欠落した中に、育たざるを得なかった」と、著者はあとがきで綴っている。飛田は“異界”でも“特殊な地域”でもなく、わたしたちが生活するこの社会の、紛れもなく地続きにある場所なのだ。

 飛田は「古き良き花街情緒を残す町」として紹介されることも多く、一度は行ってみたいという人もいるかもしれない。しかし、著者は「本書を読んで、飛田に行ってみたいと思う読者がいたとしたら、“おやめください”と申し上げたい」「客として、お金を落としに行くならいい。そうではなく、物見にならば、行ってほしくない」と書く。そして、「そこで生きざるを得ない人たちが、ある意味、一生懸命に暮らしている町だから、邪魔をしてはいけない」と締めている。──飛田新地料理組合には橋下の写真が飾られているというが、この町を、橋下は弁護士として、大阪市長として、果たしてどのような思いで見つめているのだろうか。