文庫として復活! 平成ライダーシリーズが熱い!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 2000年にTV放送がスタートした『仮面ライダークウガ』以降、アギト、龍騎、555(ファイズ)、剣(ブレード)、響鬼(ひびき)、カブト、電王、キバ、ディケイド、W(ダブル)、OOO(オーズ)、フォーゼ、そして現在のウィザード──。

 シリーズとして復活し、その後も途切れることなく続いている仮面ライダーシリーズ。昭和のシリーズに対して「平成ライダー」と呼ばれるようになって久しいが、2012年11月より、一連の作品が「講談社キャラクター文庫」というレーベルとなって順次刊行されている。

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 これらは、TVで放送された内容の単純なノベル化ではない。本編では描かれなかったスピンオフや、後日談、ものによっては、まったく別のストーリーというものもある。

 たとえば、TVシリーズとしては2作目にあたる『仮面ライダーアギト』(岡村直宏:著、井上敏樹:監修、石ノ森章太郎:原著/講談社)でいうと、初期の頃の基本的なストーリーについては、ほぼ、TV版を踏襲しているが、その内容は徹底的に絞り込まれた「凝縮版」という印象だ。

 TV版では、後に俳優としても人気となる要潤や、賀集利樹らが演じる3人の主人公ライダーを軸としており(要潤が演じる氷川誠は正確にはライダーではないが、警視庁のG3システムを装着した姿はライダーと変わらない)、それぞれが持っていた多岐にわたる人間関係についても丁寧に描かれていた。だが、小説版では本筋に直接影響のない人物については潔く省かれている。

 また、戦闘シーンの描写も大変あっさりした部分が多い。超能力者、またはその兆候が見られる人物を狙って殺害する「アンノウン」に対して、アギトが登場して倒すまでが、文字にしてわずか数行なんてことも!

 さらに、物語の視点が、ライダーよりもむしろ、ヒロインの風谷真魚の方に比重が置かれているのも大きな特徴だ。ちなみに、TV本編で真魚を演じたのは、後に「オシリーナ」の愛称で知られるようになるグラビアアイドル・秋山莉奈。彼女が15歳のときに好演しており、それが以後の人気の出発点となっている。

 そのほかにも、『仮面ライダーアギト』の小説版には、細かいところでTV本編とは設定が異なる部分が存在しており、ある意味、元のストーリーの知識の有無に関係なく、新鮮な気持ちで楽しめることを示していると言えるだろう。

 また、5月に発売されたばかりのシリーズ6作目『仮面ライダー響鬼』(きだつよし:著、石ノ森章太郎:原著/講談社)に至っては、TV本編とは完全に別物のストーリーになっている。まず、時代設定が現代ではなく江戸時代なのだ。それを知らずに、いきなりページを捲り始めたら、ちょっとビックリすることになるはずだ。

 『響鬼』については、2005年にTV放送版に合わせた内容の『仮面ライダー響鬼―明日への指針』(稲元おさむ:著、石ノ森章太郎:イラスト、原著/朝日ソノラマ)が既出であったことが考慮されたための別設定かもしれないが、元々シリーズの中でも異色な“和風テイスト”のライダーである。その意味においては、むしろ小説版はTV版以上に作品にマッチした時代背景と言えなくもない。そして、読み進めていくと、東映が制作した別の特撮作品との意外なマッチングが待ち受けている! そんなサプライズもあるのだ。

 この2作品以外においても、TV本編をそのままなぞらえただけのものはほとんど存在せず、後日談や主人公以外の登場人物に関する知られざるエピソードなどが数多く描かれている。

 これは仮面ライダーに限ったことではないが、特撮作品は映像表現も重要な要素となるため、実際のところ細かな設定や物語の背景のすべてを作品の中に収めるのは大変難しい。そのため、こうした小説などによる文字情報として提供され、補完されることは、大変有意義と思われる。それに、描かれ方はスピンオフや別の視点など様々であっても、作品の奥行きが深くなることは間違いない。その意味においては、ノベライズされること自体はファンにとってはありがたいはずだ。

 そのことを何よりも示しているのが、読んだ読者の反応だ。Web上の様々なブックレビューを見渡してみると、各作品におけるファンの思い入れが実にディープなレベルで伝わってくる。特に、それぞれの“マイ文化史”に大きな影響を与えた作品に対しては、単純な感想にとどまらず、TVシリーズとの相違点や、その他、細かいところまで言及しているレビューが実に多い。中には辛辣な評価を下しているものもあるが、それも作品への愛情ゆえだ。

 また、一連のシリーズは、『講談社こども倶楽部』というサイトにてラインナップの紹介がなされているが、作っている方も読んでいる方も、いい意味でそのことを完全に無視しており、本気でがっぷり組み合っている両者の関係に、敬意を抱かずにはいられない。

 もちろん、そんなディープなファン以外にも、幼少の頃にリアルタイムで見ていた若い世代であれば、当時を懐かしむ想いで読むのもいい。また、当時、親として子どもと一緒に見ていた世代なら、今となってはその子どもはすっかり成長しているはずである。そんな時の流れに想いを馳せつつ読めば、感極まるかもしれない。

文=キビタキビオ