『東京レイヴンズ』作者・あざの耕平さんに聞いてみた ―ブンガク!【第5回】―
更新日:2013/8/8
【前回までのおさらい】
○【第1回】ブンガク部が廃部ってどういうこと?
○【第2回】帰国子女でラノベ好きな美少女あらわる!
○【第3回】ブンガク部の救世主?顧問をさがせ
○【第4回】ラノベ好きな先生からの挑戦状
~とある駅前~
「遅刻、遅刻! 電車を間違えたーッ!」
「あー、先輩。こっちです、こっち!」
「はあ……、はあ……二人ともごめん遅れた……」
「もう遅いですよ! せっかくの今日という日に!」
「まことに面目ないです……」
「そんなことより早く行きましょうよ! 今回は特別なんですから!!」
「智樹先輩の言う通りですね。それでは行きましょう、我らの部長さん!」
「では、いざ富士見書房へ……」
「レッツ・ゴー!」
~富士見書房~
「ラノベは読んだことあっても書いている人のことはよく知らないよね、じゃあ取材に行こうか、みたいな軽いノリで来ちゃったけど大丈夫かな」
「先輩、当たって砕けろですよ! しかもアニメ化が決まった『東京レイヴンズ』の原作者、あざの耕平さんだなんて光栄じゃないですか」
「ほら二人とも、あざのさんいらっしゃいましたよ!ご挨拶、ご挨拶!」
「あざの先生、今日はよろしくお願いします!!」
1話の脚本が完成するのに1ヶ月以上かかることも
あざの耕平
あざのこうへい●『神仙酒コンチェルト』でデビュー。徳島県出身。代表作に『Dクラッカーズ』『BLACK BLOOD BROTHERS』シリーズなど。アニメ化が決まった『東京レイヴンズ』(富士見ファンタジア文庫)は現在9巻まで刊行されている。同シリーズのコミック版である『東京レイヴンズ(6)』(角川書店)、『東京レイヴンズ 東京フォックス』(富士見書房)も好評発売中。公式ブログ http://azanoblog.blog35.fc2.com/
――では早速ですが、ご自身の作品がアニメ化されることについてどう思いますか?
アニメ化は素直に嬉しいですね。ファンの人たちが喜んでくれるだろうというのもありますし、私自身、自分の作品がアニメーションになって観ることができるのが単純に嬉しいです。あとはこれでより作品を多くの人に知ってもらえるってことも大きいですね。
――『東京レイヴンズ』のアニメ制作にはどのような形で関わっているんでしょう?
今回はいろいろ関わらせてもらっていて、脚本会議にもかなり参加しています。また、例えば、声優さんのオーディションテープを聞かせてもらって、監督や脚本家さんなどとキャラクターの声のイメージを話し合いながらキャスティングするという経験もさせてもらいました。
――ちなみに“脚本会議”ってどんなことをするんですか?
監督、シリーズ構成、脚本家、アニメスタジオの進行担当やプロデューサー、編集担当などが集まって各話の脚本について検討する会議です。ライトノベルのアニメ化の場合、原作をもとに、こういう構成で進めようというあらすじをまず作り、そこから各話ごとに脚本を書いていくのですが、それに対して監督やシリーズ構成が細かい指示や修正を入れ、監督のOKが出るまでこの工程を何度も繰り返します。
そこで完成した脚本が絵コンテになり、それをもとにフィルムが作られるので、脚本に妙な狂いが生じると変な絵になってあがってきてしまい取り返しがつかなくなります。だから監督はじめスタッフは細心の注意を払いながら脚本を作っていくんですね。絵コンテは基本修正しませんから、脚本はギリギリまで手を入れます。会議は週1回行っていますが、一度に複数の脚本をチェックするため、毎回かなり時間がかかります。また一発でOKが出ることはまずなく、大抵2~3回は修正が入りますから、長いもので脚本1話分が1ヶ月以上かかることもありますよ。
私の方は、監督などから、このシーンはこういう解釈でよいか?このセリフはこういうふうに変更してもよいか?などの確認があった際に、原作サイドとしてジャッジするのが役目ですね。物語について一番詳しいのは原作者ですから、設定的におかしいとか、その後の展開などとの整合性などを見ている形です。
――なるほど! それを聞いてアニメがますます楽しみになりました。
スタッフ同士、自由に意見を言い合いながら作っているので、良い仕上がりになると思います。
ご期待下さい。
ライトノベルの一番良いところは権威がないこと
――次にあざのさんご自身に関する質問です。小説を書きはじめたのはいつ頃ですか?
実は幼稚園の頃には小さなお話を書いていました。今でもそれが残っていますから(笑)。ちゃんと小説を書き始めたのは大学に入った頃ですね。
――そんなに小さい頃からお書きになっていたのですね。
最初は単に趣味で書いていました。それから大学のときにパソコンを初めて買ってワープロの練習のために書き始めました。それまでは短編小説を手書きで書いていましたからね。それからブラインドタッチを練習しようと思って長編小説も書くようになりました。
――作家デビューのきっかけってなんだったんでしょう?
もともと小説を読むのが好きだったので、小説家に憧れみたいなものはありました。それで自分でも小説を書いたりしていたのですが、せっかくだから文学賞に応募してみようと思ったのがきっかけですね。そこで応募作品を見た編集の方に目をかけてもらってデビューにいたりました。
――作品を執筆する際に気をつけていることはありますか?
えーと、いろいろあるんですけど(笑)。 まあ、読者にわかりやすく、楽しんでもらえるように伝えることと、それと同じくらい自分も楽しめるようにすることは特に大事にしてますね。このふたつはバランスが重要で、どちらかが極端になってしまうと私の理想とする仕事のやり方から離れてしまうので、なるべくそうならないよう気をつけています。
――ひとつのシリーズを作る際に、どこまでストーリーを考えているのでしょうか?
作品によって異なりますが、全体的な流れは最初から最後まで考えています。ただ細かい内容をきっちり決め過ぎると融通が利かなくなってしまうので、本当に大まかな流れだけですね。ライトノベルはなかなか厳しい世界ですから、書いた作品の人気がないと早めに切り上げてまとめなければならないですし。例えば『東京レイヴンズ』では、主人公が少しずつ成長していく王道ど真ん中のバトルもの、という大筋は変わりませんが、途中細かい設定をかなり変更しています。実は1巻は1回書いた原稿が全ボツになりましたしね(笑)。
――え! それはひどい(笑)
ライトノベルって出だしがものすごく大事なんですね。一巻にその作品の魅力を全部詰め込んで、一気に認知されないとあっという間に埋もれてしまって後が続かない。ただ、『東京レイヴンズ』は主人公の成長物語ですから、最初は弱いですし、秘密があっても明かすわけにはいかず、どうしても素朴な味わいの作品になってしまいます。そこで、いろいろな仕掛けをして、それがより活きるよう編集担当と相談しながら設定や展開を大幅に変更しました。実はメインキャラの性別や年齢なども変えているんですよ(笑)。
――物語のアイディアは一人で考えるのですか?
基本的には一人で考えています。もちろん編集担当と打ち合わせをして、その中で出た意見を取り入れて書くこともありますし、読者の反応を見ながら、ここは変えようとか、ここはこのままにしようとか考えることもあります。
――ラノベの場合、イラストが重要な要素だと思いますが、何か指示は出されるのですか?
私の場合はほとんど出さないですね。生意気なことを言わせてもらえれば、私の頭の中にある絵が100%再現されることはないと思っているので。ところが、ですね。120%のやつはたまにあるんですよ(笑)。それってこっちが指示している限りは絶対に出てこない。指定すると、こっちが思っている絵にどれだけ近づけるかになってしまうんですが、そうではなく私がイメージしていた以上の素晴らしい絵は、向こうが自由に描いた時のほうが出るんですよね。たまに、「この絵かっけー!」と思って文章の方を直すこともあります(笑)。
――では最後の質問です。ずばり最近のラノベ業界についてどう思いますか?
なかなか難しい質問ですね(笑)。まあ、単純にこの業界が長く続けばいいなあと思っています。あと、普段ライトノベルを読まない人から見ると、このジャンルの作品はひとつの括りで見られていると思いますが、あまり決めつけないでまずは1~2冊読んでみてほしいですね。ライトノベルといっても様々で本当にいろんな作品があります。だからこそたくさんの人々を取り込んで成長していると思いますし。
私の先輩作家の水野良先生が「ライトノベルの一番良いところは権威がないこと」と仰ったことがありました。まさにその通りで、生まれて初めて書いた作品がその業界のトップになることだってありえる世界なんですよね。これがこうだから良い、この作品はこうだから偉いというのがないところがすごく大事なことだと思っています。だからこそ勢いがあるのでしょうし、理想で言えば、ライトノベルが若い人全般向けのエンタメジャンルになればいいなと思っています。
次回予告
「初めての取材、楽しかったね!」
「貴重な経験でしたね!」
「先輩方、ハイテンションですね」
「さて次回からはいつもの僕たちに戻ってがんばりましょう!」
「部のほうも再開ですね!」
「では、次回のブンガクをお楽しみに!」
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