バイタルエリアはスカートの中! 美人なのに残念なお姉さんが話題!

マンガ

公開日:2013/6/18

 だれもがうらやむような美貌を持ち、運動神経抜群でなおかつ成績優秀。人当たりもよく、人望も厚い。そんなハイスペックな女子高生、近衛靄子には、ある悩みがあった。それは、実弟である近衛輝が、血のつながりがあるにも関わらず自分に欲情し、あの手この手の変態行為でその欲望を満足させようとしていること。そんな魔の手に怯えながら日々を暮らしていく靄子。彼女の純潔は守られるのか、それとも抵抗むなしく、輝の毒牙にかかってしまうのか…。

 とまあ、じつはこれらは、靄子の妄想なのだ。弟の輝は、靄子に対して肉親以上の感情を持っていないのである。ハイスペックであることは事実なのだが、輝が絡んできた途端に、妄想が爆発し、果てない脳内ワールドに突入してしまう。そんな残念なお姉さんを描いた、『週刊少年サンデー』(小学館)で人気連載中のマンガ『姉ログ』(田口ケンジ/小学館)の1巻が先月発売された。

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 先にも説明したとおり、靄子は弟の輝のことを「姉である私に求婚し、愛の契りを交わそうとしているド級の変態弟」と断定し、その行動のひとつひとつに、律儀に妄想を爆発させる。その妄想の激しさは、日々、「教室に侵入してきたテロリストと、どう対峙するか」などで頭がいっぱいの童貞のそれに近い。なので、自然と親近感が湧いてくるのだが、それすらもぶっちぎるかのように、靄子の妄想はすさまじさを増していくのである。

 たとえば、ある日、靄子はお風呂に入ろうとするのだが、その瞬間、「輝は、私のお風呂を覗こうとしている」と察知する。もちろんそんなことはなく、靄子の杞憂にすぎないのだが、妄想をたぎらせている靄子にはそんなこと関係ない。とりあえずは、扉に鍵をかけるということで落ち着くのだが、ここでその妄想が止むかと思ったら大間違い。湯船に浸かりひと心地ついた瞬間に、「違う、私は思い違いをしていた…」と考えるのだ。そして続けて「姉の残り湯! 本命はこっちだ!!」という、ぶっ飛んだ結論に思い至ってしまう。こうなってはもう止まらない。靄子の頭の中には、舌なめずりする輝の姿とともに「覗き行為? そんなものはかりそめ…私が入った後のお風呂の残り湯こそが輝の真の目的なんだ!!」という想像でいっぱいになってしまう。どんな思考を辿っても、そんな考えにはなかなか至らないとは思うが、そこが靄子クオリティ。その妄想の暴走っぷりにはもう釘付けだ。

 また別のある日の朝、寝ている輝を起こそうとする靄子だが、輝はなかなか起きようとしない。その姿に呆れながらも、かいがいしくその体をゆすり、声をかける靄子。しかし、そこではたと手を止め、考える。もしや自分は、マンガなどでありがちな、幼なじみキャラと同じ行動をしているのではないかと。そうスイッチが入ってしまったのである。さあ、もう妄想は止まらない。幼なじみキャラは、主人公キャラと最もくっつく可能性が高い優良物件であると看破しつつ、そんな幼なじみキャラと同じ行動を姉にとらせるとはなんて恐ろしい弟、と寝ている輝を睨みつけるのだ。もうなんというか、どうしようもない、どうしようもないほど残念な人である。

しかも、輝が寝ぼけて仰向けの姿勢から、横向きになったのを見るやいなや、その人一人分空いたスペースに「こ、ここ、これは“姉さん、入って来いよ”アピール!?」と激しく動揺。そんな誘いに乗る私では、などと言いつつも、「4時間しか寝てなかったわぁ~」と、その布団にもぐり込んでいく。残念な人であるという感想は変わらないが、その姿には、思わず萌えてしまう。これにはさすがに「くぅ! 気丈でありながらも残念な姿をアピールし、なおかつほのかにブラコンぶりを発揮するなんて、姉萌えのなんたるかを熟知しているとしかいいようがない!」と、読んでいるこちらが靄子よろしく、妄想を爆発させてしまうだろう。

 ほかにも、靄子の幼なじみと輝の3人で、サッカー観戦に興じていた際もすごい。輝と幼なじみはサッカー好きらしく、2人でワイワイと盛り上がっており、靄子はその会話についていけない。そこでハタと気づく靄子。なんとここで、輝と幼なじみの2人は、サッカー談義に見せかけて、まったく別の会話をしているのではないかと思い至ってしまうのである。いわゆる隠語と呼ばれる、当人同士でしか通じない暗号や言い回しで会話しているのではと考えた靄子。

 輝が放った「オフ・ザ・ボール」という単語を、オフ・ザ・ボール→ボールがオフってる→ボールがない状態→タマがない状態→タマなし野郎、という具合に暴走気味に発展させてしまい「絶対エッチな話してるじゃあないデスカー」と結論づけるのだ。また、その後も「プレッシング」→強引に押し倒す、「バイタルエリア」→生命の領域→大事な場所→女性のスカートの中、といった具合に妄想はエスカレートしていくのである。たしかに、サッカーを知らない人にとっては、専門用語を使う会話は、まるで暗号。それがどんな意味を持つか、ということを想像してしまうのもわからないでもない。だが、靄子の場合は想像力がたくましすぎて、もう正直、なにかに取り憑かれているんじゃなかろうかと心配になるレベルである。

 このように、日々その聡明な頭脳を使い、童貞の妄想力を超える勢いで妄想を膨らましていく靄子。「いいや、俺の妄想力は53万です。絶対に負けないね」という方は、一読してみてはいかがだろうか。だが、靄子の妄想力もサイヤ人並なので、心してかかったほうがいいだろう。

文=オンダ ヒロ