“契約”専業主婦コミックを読んで、仕事としての主婦業を考えてみた

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更新日:2013/6/21

 最近、女性の中では「専業主婦になりたい!」という人が増えている。やっぱり外で働くよりは楽そうに見えるし、就職難ということもあって余計に専業主婦願望が強くなっているのかも。そして、6月13日に発売された『逃げるは恥だが役に立つ』(海野つなみ/講談社)の主人公・森山みくりも彼氏はいないし、派遣切りにあって仕事もなくなる。その後、父の紹介で部下の津崎平匡の家事代行をすることになるのだが、ある事情があって仕事を続けられなくなってしまうのだ。そんな彼女が出した結論は、なんと就職先として平匡と“契約結婚”すること!? そもそも、就職先として結婚することはアリなのだろうか? さまざまな条件をあげながら判断してみよう。

 まず、仕事の内容としてはどうだろうか。毎日の食事や掃除、洗濯といった家事はもちろん、みくりの場合は宅配の荷物の受け取りや各種振り込みなども請け負っている。食料の買い出しやその他の出費に関しても平匡が組んだ予算内でやりくりしなければならないし、家計簿のチェックも入る。それに、冠婚葬祭など夫婦で出席しなければならないものや盆、正月といった帰省の際は、手伝いをしたりして妻として恥ずかしくないふるまいをしなければならないのだ。こうやって見てみると、専業主婦の仕事も雑用から人付き合いまで幅広く、案外大変なことがわかる。

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 次に、勤務時間について見てみよう。みくりたちの場合は、初めに業務、給料、休暇について細かく決めていた。平匡が家にいる休日は基本家事をしなくていいし、勤務時間外なら頼まれてもお茶ひとつ入れる必要はない。でもちょっと待って。そもそも、実際の主婦に勤務時間内とか、外なんてものがあるだろうか。外で働いている旦那さんは、仕事を終えて家に帰ればもう勤務時間外かもしれない。でも、専業主婦は旦那さんが帰ってきたらごはんとお風呂の用意をして片づけもこなし、朝は旦那さんより早く起きてごはんや弁当の用意をする。旦那さんが仕事に行っている間も実際は家事をこなすだけで結構な時間がかかってしまうので、自由な時間なんてそうそう確保できない。旦那さんが家にいる休日にいたっては、朝から晩まで休みなく働いているようなものだ。もしかすると、実働時間は旦那さんより長いかも。

 では、仕事先での待遇はどうだろう。彼らは偽装夫婦なので、寝室も別だしちゃんと自分の時間がとれるようになっている。もちろん夫婦の営み的なものも必要ないし、相手への気遣いと世間体を考えて極力見つからないようにしさえすれば、お互いに恋人を作ってもいいのだ。それに、平匡は人前でも「いつもありがとうございます」とか「いつもご苦労様です」といった感謝の言葉を伝えてくれる。普通の仕事なら、きちんと業務をこなすだけでも誰かにお礼を言ってもらえたり、感謝してもらえることが多い。どんなに仕事が大変でも、ひとこと「ありがとう」と言ってもらえるだけで俄然やる気が出るものだ。でも、専業主婦は家事をやって当たり前だと思われている。毎日家事をこなしても感謝されないのに、たまに体調が悪くて掃除ができなかったり、帰宅したときにご飯ができていないだけで文句を言われては不満もたまる。この仕事を毎日毎日何十年も続けるには、かなりの忍耐力が必要だろう。

 最後に、肝心な給料面はどうなっているのか。みくりと平匡はきちんと勤務時間を決めて給料を計算しているし、休日に平匡の同僚が遊びに来ることになり、みくりがもてなすことになってもきちんとその分の休日手当がもらえる。そして、家賃食費光熱費は折半なので、みくりはもらった給料の中からその分のお金を支払わなければならないのだ。普通の専業主婦なら、家賃や光熱費なんて払わない。その代わり、家事をしても給料はもらえない。一見、どちらも理に適っているような気がするけど、本当にそうだろうか。主婦が毎日こなしている“家事”という仕事の対価は、ちゃんと家賃や食費、光熱費といったもので相殺される程度? 労働時間から考えると、ほとんどタダ働きに近いような気も……。なのに、逆に「俺が養ってやっている」「夫に養ってもらっている」なんて意識に陥ってしまう夫婦も少なくない。でも、本来夫婦はどちらかがどちらかに何かをしてやるような関係ではないはず。

 仕事としての結婚は、みくりと平匡のようにここまできちんと決まりを作り、賃金が発生しているからこそうまくやっていけるわけで、「専業主婦=働かなくていい、楽できる」というイメージよりもはるかに大変なはず。時間外労働し放題、給与なしでは、場合によっては、ちょっとしたブラック企業並みということもあるだろう。それでも、あなたは就職先として結婚を選べますか?

文=小里樹