人はなぜお化け屋敷に、わざわざお金を出して並ぶのか?

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更新日:2013/7/2

 梅雨が明けたら夏はすぐそこ! というわけで、今年も最新のお化け屋敷情報がメディアを賑わせている。“ヒュ~ドロドロ…”でおなじみの妖怪や幽霊が登場するチープな子どもだましというイメージも強かったが、近年人気のお化け屋敷は目を見張る進化を遂げている。

 一度はすたれかけたお化け屋敷が高い集客力を持つまでの過程をひもとき、ヒットの舞台裏を明かすのが、『お化け屋敷になぜ人は並ぶのか』(五味弘文/角川書店)。著者は“お化け屋敷プロデューサー”の五味弘文氏だ。珍しい肩書きだが、具体的な仕事内容はお化け屋敷制作の依頼を受けて設定やストーリーを練り、できあがった演出プランをもとに美術、音響、照明などを各専門家に発注、さらに宣伝やプロモーション方法を考えたり、スタッフやキャストに運営指導を行ったりと、お化け屋敷の一切を取り仕切るというもの。

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 お化け屋敷ビジネスを語る時に忘れてはならないのが、お化け屋敷特有の“コワ楽しい”という複雑な心理だ。人には怖いモノを避けようとする本能があるにもかかわらず、人はお金を払い、お化け屋敷の行列に並び、わざわざ恐怖を味わいに来る。これはいったいなぜなのか――。その答えは本書を読んでいただくとして、運営側はニーズに応え、ありとあらゆる手法を用いて“極上の恐怖”を提供する。命の危険はなく、100%安全であり、出てくるお化けはすべて偽物。にもかかわらず、絶叫するほどの恐怖を感じさせ、かつ満足感のあるものでなくてはならない。

 なんとも大変な仕事だが、五味氏が手掛けてきたお化け屋敷は実にユニークだ。初期では世界的な舞踏家・麿赤児氏を演出に起用して驚異的な動員数を記録した「麿赤児のパノラマ怪奇館」、日本で初めてお化け屋敷にストーリー性を導入した「楳図かずおのおばけ屋敷~安土家の祟り」などでヒットを連発。この後も、カップル客を手錠でつないで分断された廊下を左右別に歩いてもらう「LOVE CHAIN~恐怖の鎖地獄」、手にしたブラックライトで血痕のルミノール反応を辿って進む「血まみれの足跡」、足を切られた女の怨念がこもる家で靴を脱いで歩く「足刈りの家」など、いずれもコンセプトや設定、小道具使いが光る。

 さらに、2007年にはお化け屋敷の館内を定点で撮影し、インターネットにリアルタイムで配信する“お化け屋敷ライブカメラ”「ゴーストカム」をスタート。営業終了後も淡々とお化け屋敷の様子を流し続けた結果、はからずも視聴者に「ただならぬものを見ている気がする」と言わしめるほどの不気味な演出に成功した。ここから見えてくるのは、ネットならではの独特の恐怖の形だとする考察は目からウロコだ。

 貪欲に現代のツールを取り込み、進化を続けるお化け屋敷。日々新たな企画を求められるビジネスマンやお化け屋敷好きの人はもちろんのこと、お化け屋敷に興味がなかった人もきっと楽しめるオドロキに満ちた1冊だ。

文=矢口あやは

 

【五味氏プロデュースのお化け屋敷】
「沖縄お化け屋敷2013 ゆびきりの家」(7/5~)
http://www.yubikiriokinawa.com/

「呪い歯 -密八号の家-」(大阪 7/12~)
http://www.mbs.jp/mitsu8/

「呪い歯 -密九号の家-」(名古屋 7/12~)
http://hicbc.com/event/mitsu9/

「呪い歯 -密十号の家-」(東京 7/19~)
http://mitsu10.com/

【株式会社オフィスバーン(五味氏が代表を務める)】
http://www.officeburn.jp/