すごく面白いのに~! 書評家が選ぶ“書評を書くのが難しかった本”ランキング

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 みなさんの中には、書評をきっかけに読む本を決めるという人もいるだろう。だが、魅力をただ並べるというわけにはいかない書評家にとって、面白すぎる本ほど書評家泣かせなのである。
 そこで今回は、ミステリーの分野で活躍中の書評家・杉江松恋さんに“すごく面白いのに~! 書評を書くのが難しかった本”を紹介してもらった。

【1位】『終わりの感覚』 ジュリアン・バーンズ/著 土屋政雄/訳 新潮社 1785円
引退生活を送る男は、20代で自殺した親友が書いた日記を託されることに。遠い記憶をたどった男は、かつての恋人に遭遇するが……。衝撃的な結末が待つ、ブッカー賞受賞作。

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【2位】『バレエ・メカニック』 津原泰水 ハヤカワ文庫JA 693円
造形家の木根原の娘・理沙が不慮の事故で昏睡状態となり9年。世間では奇妙な災害が頻発し始め、その原因が理沙の夢想にあるとの説が浮上する。謎と幻想が交錯する異色作。

【3位】『PK』 伊坂幸太郎 講談社 1260円
「PK」「超人」「密使」という3本の中編からなる作品。ランキングの選者・杉江氏は「3作をどういう順番で読むかで全体の印象が変わる。作者の真の狙いは……?」と語る。

【4位】『ミステリウム』 エリック・マコーマック/著 増田まもる/訳 国書刊行会 2520円
壊滅寸前の町に主人公が潜入。町で何が起きているのかを探るうち、正体不明の奇病の存在を知ることに。シュールな展開の裏に隠された真実が気になる、奇想現代ミステリー。

【5位】『ノックス・マシン』 法月綸太郎 角川書店 1575円
イギリスの推理作家・ノックスが、1929年に発表した探偵小説を書く際のルール=“ノックスの十戒”をモチーフにしたSF作。古典ミステリーファンを唸らせる仕掛け満載。

【6位】『LAヴァイス』 トマス・ピンチョン/著 栩木玲子、佐藤良明/訳 新潮社 3780円
謎多き作家、トマス・ピンチョンによる探偵小説。表向きは、ヒッピーの私立探偵がウェスト・コーストを舞台に活躍する物語だが、その背景では想像を絶する陰謀がうごめき……。

【7位】『モンスターズ』 山口雅也 講談社文庫 730円
ミステリー界きっての博識、山口雅也の中・短編集。抜群の知識量に裏打ちされた構成の独自性が魅力。「書評なのに、気づいたら山口雅也論に。それほど個性的」(杉江氏)。

【8位】『アンダーワールドUSA』(上・下) ジェイムズ・エルロイ/著 田村義進/訳 文藝春秋 各1890円
70年代のアメリカの暗部を描く壮大な犯罪小説。エルロイのワイルドな文体は、書評家の書く文章にも影響。「似たような文体で書評を書かないと物足りない気分に……」(杉江氏)。

【9位】『湖のほとりで』 カリン・フォッスム/著 成川裕子/訳 PHP文芸文庫 1000円
“犯罪小説の女王”と呼ばれるノルウェー人作家の、映画原作にもなった捜査小説の傑作。「淡々とした展開の魅力を、文章で表現することが非常に難しかった」(杉江氏)。

【10位】『インサート・コイン(ズ)』 詠坂雄二 光文社 1680円
杉江氏が「ゲームの知識不足で、書評に魅力を書ききれなかった」と語る一作。スーパーマリオやドラクエなど、往年のファミコンにハマったゲーマーの視点で書かれた作品。

取材・文(ランキング部分)=澤井 一
(ダ・ヴィンチ8月号 「その道のプロに聞く! ダ・ヴィンチなんでもランキング」より)