その起源は紀元前の中国だった! 「九九」を楽しく覚えられる絵本

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 にいちがに、ににんがし、にさんがろく……と声に出して覚えた「九九」。その起源は中国にあり、時代は春秋時代(紀元前770~紀元前403年)にまでさかのぼるという。春秋時代というと、儒学の基本となる「四書」のひとつである『論語』で有名な孔子が活躍した時代だ。そう考えると、九九というものがいかに古くからあるものかわかるだろう。

 九九が日本に伝わったのは、奈良時代よりも前だと考えられているそうで、日本に現存する最古の和歌集である『万葉集』(成立は7世紀後半~8世紀後半頃)には、「十六」と書いて「しし」と読ませる記述があるそうだ。2010年には九九が中国から伝わったことの根拠となる「一九如九」(いんくはくのごとし)と書かれた木簡が、奈良の都であった「平城京」の中の天皇の住まいである「平城宮」の「衛府」という天皇を守る軍組織があった場所で発見されている。発掘した奈良文化財研究所によると、見つかったのは下級官僚の手習いと見られ、多数の兵士を扱う役所なので確実に計算できる能力が求められていたのだろう、ということだ。古代から読み書きと同様、九九が「役人必須のスキル」となっていたのだ。ちなみに当時の九九は「9×9=81」から始まって、「8×9=72」「7×9=63」と続く現代とは違う順番だったそうだ。また江戸時代には九九は寺子屋で教えられていて、一杯を十六文で食べられる屋台のそば屋が「二八そば」といわれていたことからも、九九は庶民にまで浸透していた計算法だったと言えるだろう。

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 現代の日本では、小学2年生の2学期から九九を学習することになっている。ちなみに九九を覚える際、「7、8の段が言えない」「順番には言えるが、ランダムに出されると答えられない」「文章題になると答えられない」という「3つのつまずき」があるそうで、ここをいかにクリアするかが九九の習得には欠かせないようだ。

 そんな九九を楽しく覚えられるのが、絵本『九九をとなえる王子さま』(はまのゆか/あかね書房)だ。魔法で九九を消してしまった算数嫌いの「かける王子」が、数やお金の計算ができなくなって大混乱に陥ってしまった「数字の国」に九九を取り戻すために冒険し、九九をすべて唱えるというという、ゲームをクリアするように読んで楽しく覚えられる仕掛けが施された絵本だ(本書のカバーを外すと、九九のポスターとしても使える)。

 本書の作者であるはまのゆか氏は、ファンであった作家の村上龍氏に連絡を取ったことから交流を持つようになり、その縁から京都精華大学マンガ専攻在学中に村上氏の著作『あの金で何が買えたか―バブル・ファンタジー』(小学館)の挿絵でデビューしたという絵本作家・イラストレーターだ。その後も子どもが仕事を考えるきっかけとなるベストセラー『13歳のハローワーク』(幻冬舎)でも挿絵を担当しているので、水彩の優しいタッチのはまの氏の絵を見たことがある人も多いのではないだろうか。

 また「声に出して覚える」というのも九九の特徴だが、本書では音楽と朗読が合わさった読み聞かせの音声データも販売予定だという。算数が苦手なお子さんがいる親御さんや、2学期から始まる九九の授業に早くもブルーになっている算数嫌いの子が親戚や近所にいる方は、つまずいて九九嫌い、算数嫌いになってしまう前に、夏休みのプレゼントとして渡してみてはどうだろうか?

文=成田全(ナリタタモツ)