小規模ながら勇気ある発言! 福満しげゆきのコラム集が痛快

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 ゾンビ×お仕事マンガ『就職難!! ゾンビ取りガール』(講談社)を週刊連載している注目のマンガ家・福満しげゆきの書き下ろしコラム集『僕の小規模なコラム集』(イースト・プレス)が、思わず吹き出してしまう面白さだ。

 福満しげゆきといえば、自身のマンガ家生活を描いた『僕の小規模な生活』(講談社)などのエッセイマンガで知られている。編集者とのやりとりや妻との暮らしぶりなど、特に大事件が起きているといった話でもないのに、不安にかられた福満の自意識が克明に描かれることによって、妙なおかしさを生む独特の作風だ。

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 本書は「不安だらけのエロ」「不安だらけの学校」「不安だらけの社会」「不安だらけの漫画」など全4章に分かれているのだが、テーマはすべて「不安」。かといって、ただネガティブなわけでもなく、「不安」をカミングアウトすることによって、自身の体験をネタ化する笑いへと転化されているのだ。

 まずは、まったくモテなかった童貞時代のモンモンが記されるわけだが、「ゲイでもない僕がしゃぶりたい理由」と題されたコラムが秀逸。10代の頃、友人が厳しい柔軟体操の日々により、「ついに会得したのだ」というヨガ行者のごときセルフプレイを知り、それを真似て作者が試行錯誤するという話なのだが、あまりのトホホっぷりに久々に声をあげて笑ってしまった。これはさすがにマンガでも描きづらいだろう。

 もう隠すものも何もない、といった印象だけれど、福満いわく「僕がどれほど苦しかったかを書きだせば、紙が600枚あっても足りません! 実はそこらへんの“辛さの理由”に踏み込んだ内容の文もマンガも、まだ書いたことがないのです……辛すぎて!」とのこと。ファンとしてはそうした秘めた部分こそ読んでみたくなる。

 第3章からは、いよいよ自身の不安を通して「現代社会の不安」に斬り込んでゆく。あくまで文章は面白おかしく書かれているが、その内容はけっこう切実で身につまされてしまう。今や『週刊モーニング』というメジャー誌で活躍し、人気マンガ家といっていい福満だが、印税で左うちわの生活が送れるというほどでもないようだ。子どもも2人いて、これから50代まで第一線の現役マンガ家を続けていけるのか……と毎日が不安で仕方がないらしいのだ。

 一端、そうした不安にかられると、右肩下がりの出版界やマンガ業界の苦戦など、自分の収入に関わる不安材料ばかりが目につき、朝起きて目を開けた途端、「ズーン……ゾゾゾゾゾ……」といった効果音付きで不安が迫ってくるそうだ。福満自身、それを「不安病」と認めているが、よほど恵まれた境遇の人でない限り、現代では誰しも多かれ少なかれ感じたことのある不安ではないだろうか。そうした感覚を持っている人の方が、むしろまともな気がする。

 そのほか、「原発安全厨の理系学生を論破しちゃいますよ!?」、「2ちゃんですべての知識を得るネトウヨですが、何か?」、「これが生活保護の実態なのです!」と題して、今問題とされている現象に対して持論を展開するわけだが、弱腰ながらも開き直った口調が、何気に的を射ていて痛快。テレビのニュースや新聞で得た知識も、あらかじめ批判を想定して、あえて「2ちゃんで得た知識」と卑下して言うそうだ。これが実は福満にとって、上から目線の人々に対して先手を打った自己防衛的ニュアンスだったりする。

 福満しげゆきの魅力は、小心者のように見えて実は大胆、というところにあるだろう。不安にかられ、ああでもないこうでもないとひとりオロオロしているようでいて、実はけっこう物事の本質に迫っているが故の成す術のない狼狽であったりして、言っていること自体は非常にまっとうな印象。えらい人も立派な人も、誰も言おうとしないから小規模ながら僕が言う。そんな勇気が溢れている。

文=大寺 明