結婚しないと産めない? 安藤美姫が突きつけた“未婚出産”問題

出産・子育て

更新日:2013/7/24

 いまなお大きな話題となっている、フィギュアスケーター・安藤美姫の出産告白。「父親は誰なのか」というワイドショー的な好奇心にとどまらず、『週刊文春』(文藝春秋)はWeb上で「安藤美姫選手の出産を支持しますか?」というアンケートを実施。これにはネットユーザーから非難が殺到し、編集長が謝罪文を発表する事態となったが、まだまだ日本では未婚で子どもを産むことへ偏見があることを感じさせる一件となった。

 なぜ、日本では未婚の出産への風当たりが強いのか。そこには根強い“結婚信仰”がある。少子化といわれつつも、日本にも「子どもを産みたい」と考えている女性は数多い。ただ、実際に産もうと思っても、ネックになっているのが「結婚」の問題だ。出産に揺れる女性たちの声が集められた『女子と出産』(山本貴代/日本経済新聞出版社)にも、「日本においては、未婚女性が出産を考えるなら、まずは、結婚というハードルが待ち構えていることが多い」「できれば、家族や友人に祝福されて、晴れて夫婦となってからの出産を多くの人は願っている」とある。できちゃった婚が多いのも、“子どもを産むなら結婚したほうがいい”というこだわりの強さを示しているだろう。実際、日本における婚外子(非嫡出子)の割合は、増加傾向にはあるが2011年で約2%と国際的に見ても低いものだ。

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 しかし、未婚で出産することが“当たり前”の国もある。『非婚の親と婚外子 差別なき明日に向かって』(婚差会/青木書店)によると、スウェーデンでは生まれる子どもの半数以上は婚外子であり、「結婚してから子を産むべき」という規範も「完全に消滅している」という。スウェーデンのみならず、フランスも子どもの半数以上が婚外子で、デンマーク、イギリス、オランダ、アメリカといった国も4割という高い数字。このような社会であれば、安藤の告白も、ここまで話題にはならなかったのかもしれない。

 また、日本が未婚の出産に消極的なのは、婚外子への差別の問題も大きく関わっているだろう。いまの日本の民法では、婚外子の遺産相続分が婚内子の半分と定められている。これが憲法に反しているのではないかと起こされた裁判では、7月10日に最高裁で当事者の声を聞く「弁論」が大法廷で行われ、今秋には違憲の判断が下されるのではと見られている。しかし、注記しておきたいのは、婚外子の差別規定の是正を国連の人権機関から再三にわたって勧告されているにも関わらず、先進国で従っていないのは日本だけであるという点だ。そういう意味では、日本は先進国でもっとも婚外子に厳しい国といってもいい。

 実際、未婚出産が多い先進国では、婚外子でも婚内子でも、受けられる権利や保障、社会的な信用度に変わりはない。前出の『非婚の親と婚外子』からスウェーデンのケースを例にすると、スウェーデンは「シングル単位社会」と呼ばれる、税制や社会保障などの単位を個人におく政策がとられている。家族、すなわち「永続的な男女関係」を前提にしていないから、結婚を推奨する必要もないし、“多様なライフスタイル”への許容度も高くなる。日本のように婚外子と婚内子の違いにこだわることもなければ、同棲、ゲイ、レズビアンといった多様なカップルの生き方も制度的に容認されるのだ。

 さらに重要なのは、日本のように「国の政策の基本を、個人ではなく家族を単位に構築している社会」は、出生率が低下し続けているという事実である。残念ながら日本では、未婚で出産することが「普通とは違う決断」と見られることも多いが、これは当事者の選択という“小さな問題”ではなく、少子化という国の根幹に関わる“大きな問題”なのだ。──「父親は誰なのか?」と盛り上がるより前に、安藤の告白が未婚の出産を阻む社会について考える、有意義な機会となることを祈らずにはいられない。