まるで芸術! 奇妙で美しい深海生物の世界

科学

公開日:2013/7/25

 宇宙よりはるかに身近にありながら、いまだ解けぬ謎に満ちている“深海”。今年始めにNHKが放映したダイオウイカの世界初映像を皮切りに、7月からは国立科学博物館(東京・上野公園)でも「深海展」がスタートするなど、地球最後の秘境が大ブームになっている。

 7月に発売された『深海生物~奇妙で楽しいいきもの~(DVD付き)』(笠倉出版社)は、深海人気を牽引する「沼津港深海水族館」(静岡県沼津市)の名物館長・石垣幸ニ氏が執筆・監修を手掛けたビジュアルブックだ。“生きた個体”の撮影にこだわり、実際に同館で飼育されたものを中心に60種類の生物を紹介している。

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 深海生物というと、「見た目がグロい、形がキモい、色が地味」というイメージもいまだ根強いが、生体のときのすばらしい魅力が死体になって損なわれることも少なくない。たとえば、本書で紹介される小型の深海ザメ「フジクジラ」は、名前の通り藤色に光る姿でおさめられているが、実は死ぬと真っ黒に変色する。同じく、写真では輝く銀色のラインを帯び、体全体がメタリックな緑やオレンジにきらめく「ギンオビイカ」も、死ぬと真っ白になってしまう。時に淡く、時に神々しく輝く彼らの色彩は、生きてこそ見られる神秘のイリュージョンだ。

 ゼリーや氷のような透明感、触れば崩れそうな繊細な形もまた、生体ならではの魅力。夢のような生物が続々と登場する様子はまるで芸術品のカタログのよう。ドラマチックな美しさにページをめくる手がしばしば止まることうけあいだ。

 また、白い体に赤やオレンジの臓器が透ける「ミノエビ」、楳図かずおかとつっこみたくなるシマシマ紅白模様の「サナダミズヒキガニ」、オレンジに黒い筋のトラ柄をまとった「キホウボウ」など、案外オシャレなデザインにも驚かされる。

 もちろん、表紙にも出演する海底のコワモテ掃除屋「ダイオウグソクムシ」をはじめ、耳のようなヒレをパタパタさせて泳ぐゆるキャラ「メンダコ」、アニメ『ヱヴァンゲリオン』の使徒にいた気がする「ヤマトトックリウミグモ」など、ユニークな姿形の生物を眺めるのも楽しい。

 これらは過去に深海博物館で飼育されていたとあって、今後も同館で見られる可能性がある生物ばかり。本書を読んで興味が出たら、実物を見に沼津へと足を運んでみるのも一興だ。

文=矢口あやは