『風立ちぬ』が100倍楽しくなる!? 宮崎駿ワールドとは?

映画

更新日:2013/8/3

「あたしこのパイ、嫌いなのよね」

 高校の頃、金曜ロードショーで録画したビデオテープが擦り切れるくらい『魔女の宅急便』を見続けた。なんといっても、セリフがたまらない。自慢にならないが、セリフはすべて言える。『ハウルの動く城』も好きだ。あのキムタクの声がいい。耳元でささやかれたら、失神してしまいそうだ。

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 ジブリ作品の魅力は、セリフや声だけではない。『宮崎駿ワールド大研究 (別冊宝島2016)』(宝島社)では、宮崎駿アニメの世界観をさまざまな角度から分析しており、新たな魅力を提示してくれる。

 彼の作品には、知られざるさまざまな裏構造が存在すると言われる。『天空の城 ラピュタ』に描かれた悪役・ムスカと主人公パズーの関係がそのひとつだ。同書によると、ムスカと、パズーは、実は分身関係にあるという。2人の共通点は、ラピュタを夢見ていたこと。しかし、パズーはラピュタという異世界から人間界に戻り、ムスカはラピュタに取りつかれるあまりに人間界に戻れなくなった。複数のインタビューや他の作品との比較をもとに、ムスカはラピュタに呑まれてしまったもうひとりのパズーだと結論付けている。こうした観ただけではわからない構造を頭に入れながら、改めて作品を観なおすのもおもしろいだろう。

 また、同書では宮崎駿のルーツについても言及している。彼の一族は「宮崎航空興学」を経営しており、宮崎アニメに出てくる兵器や戦記への愛着のルーツであったという。1941年に生まれた彼は、戦時中の軍需で何不自由なく暮らす。戦争で得をしたことが後ろめたさにつながり、日本嫌いの少年へと育っていった。7月20日に公開された映画『風立ちぬ』は、零戦を設計した堀越二郎が主人公。美しい飛行機を作りたいという思いで零戦を完成させたのにもかかわらず、神風特攻隊に使われてしまい、若者の命もろとも砕け散る。そんな「この国のおかしさ」を描こうとした同作品には、彼の幼少時代の想いも詰まっているのかもしれない。

 子どもから大人まで多くの人を魅了する宮崎駿アニメ。それぞれに自分の好きな作品やシーンがあることだろう。『風立ちぬ』を観た人もこれからの人も、彼の世界観をいろんな角度から覗いてから、さらに楽しんでみてはいかがだろうか?

文=廣野順子(Office Ti+)