あなたの“タモリブレイク”はまだ? タモリに潜む狂気と笑いを解説する新たなタモリ解体新書

芸能

公開日:2013/8/5

 生放送のご長寿番組『笑っていいとも!』で、7月1日から2日にかけてちょっとした“異変”が起きた。一部のコーナーでタモリが突然姿を消したのだ。ネットでは、御年67歳になる彼の体調を心配する声もあがったが、不在の真相はいまだ本人の口からは語られていない。

 時同じくして出版された新書『タモリ論』(新潮社)が、発売後1週間で6万部を超えるベストセラーになっている。著者は、小説『さらば雑司が谷』(新潮社)で知られる作家・樋口毅宏氏。1975年、30歳で芸能界デビューしたタモリがイグアナのモノマネやハナモゲラ語を披露していた頃から知る生粋のウォッチャーである。

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 タモリにそれほど惹かれない“タモリ不感症”の人にとっては不思議だろう。ユルくて、地味で、淡々としているタモリの一挙手一投足が、なぜこれほど話題になり、長年にわたって人を惹きつけるのか? 樋口氏は本書の中で、わかりにくいタモリの妙技についてこう述べている。

 「ビートたけしやダウンタウン松本が時に懐から刃物をチラつかせて、誰からも恐れられる“自らをコントロールできる狂人”だとしたら、タモリは一見その強さや凄さが伝わりにくい、まるで武道の達人のようです」。

 そもそも当の樋口氏自身、観客が何を聞かれても「そうですね!」と返す「いいとも!」のやりとりがバカバカしくて見ていられなかったクチだったという。しかし、「人は生きているうちに何度か、人生の通過儀礼としてタモリを括目して見るときがきます」――氏はこれを“タモリブレイク”と呼ぶ。

 本書では、多くの人がタモリブレイクを経験するきっかけになったとして、タモリ最大の恩人・赤塚不二夫の葬儀で彼が読みあげた弔辞を紹介する。後日談も含め、思わず新たなタモリブレイクを起こしそうな内容だ。まだご存じない方は、ぜひ本書で全文をご覧になってみてほしい!

 次々と紹介される秘話の中で、印象的なお話をもうひとつ。今でこそ『いいとも!』でお茶の間の守護神的ポジションを得たタモリだが、「始まった直後はタモリさんがお昼の番組の司会をやるというのは、エガちゃん(江頭2:50)がやるようなものだった」。タモリよ、何があった!? と思わずにはいられない常人離れした逸話の数々に、もっと見たい、もっと知りたいと、思わずタモリ欲がかきたてられる。

 深夜向けのアングラ芸人、師匠を持たない文化人的芸人、知らぬ者はいない国民的タレント芸人……見る時期、見る方向によってタモリの顔はくるくると変化する。彼はいかにして現在の地位を築いたか。なぜ30年も昼の生放送番組を続けられるのか。前半では長年のウォッチングに裏打ちされた考察でそれらの謎に迫り、後半ではビートたけし、明石家さんま、松本仁志などのスーパースターたちとの関係性から魅力を語る。

 静かな佇まいに隠された並はずれた感性、サングラスの奥からにじみ出る孤独や狂気で人を虜にし続けるタモリ。彼にそれほど興味がない人にこそオススメしたい、笑いの巨人と同時代を生きている喜びをしみじみと実感できる1冊だ。

文=矢口あやは