世界遺産に沸く富士山 樹海を行く「いな散歩」とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 夏の代名詞といえばそう、背筋も凍る怖い~話。『ダ・ヴィンチ』9月号では、怪談語りの第一人者・稲川淳二を表紙に真夏の怖い話を大特集。稲川怪談の舞台となった場所を訪れたいと、なんと編集部一同で、稲川怪談聖地巡礼ツアーを敢行! 訪れたのは八王子城跡と青木が原樹海。かつて稲川さんが心霊現象に遭遇したというその場所で、霊感ゼロの取材班は何を見たのか!?

世は散歩ブームである。文学の舞台をめぐる文学散歩、歴史上のスポットをめぐる歴史散歩も大人気だ。しかし! あなたはご存じだろうか。今世紀もっともホットな散歩スタイルとして「稲川淳二の怪談スポットをめぐる散歩」、略して「いな散歩」が世界中で注目を集めていることを。

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「――知るわけないじゃないですか。アホらしい。そんなことより、早く行き先を決めてください」

 ダ・ヴィンチ編集部R氏が夢のないことを言う。はいはい、分かりましたよ。というわけで、第1回稲川怪談聖地巡礼ツアー、行き先は東京都下の八王子城跡と青木が原樹海に決定。稲川ファンの端くれとして、どちらも一度は訪れてみたかった場所だ。

 6月某日、R氏の運転するレンタカーで中央自動車道を西へ。車中のBGMはもちろん稲川淳二の怪談CDアルバム『樹海』だ。稲川怪談はドライブにもぴったりだなあ、と感心しながら車を飛ばすこと約1時間、八王子城跡に到着。すぐさま史跡の脇にある滝を目指した。かつて撮影でこの場所を訪れた稲川さんは、闇の奥からザッ、ザッ、ザッと足音が近づいてくるのを聞いたというのだが……霊感ゼロの一行は怪しい気配をまるで感じず。「酸素が濃いねえ」「猿がじゃれ合ってるねえ」「のどかな所だねえ」と、豊かな自然にすっかりリフレッシュしたのでありました。

 そんなこんなで樹海に到着したのは夕方4時過ぎだ。今にも雨が降りだしそうな空模様もあって、遊歩道入口付近に人の姿はほとんどない。この日はゲストとしてホラー作家の黒史郎氏が同行。「いいお土産があったら持ち帰ろうと思って」と、ビニール袋を片手に目を輝かせる。樹海のお土産とは一体?

「呪いの藁人形とか」

 なるほど……。そんな会話を交わしながら、底知れぬ森へと足を踏み入れる。方位磁針がきかないとも噂される青木が原樹海、おのずと緊張感が高まった。

 樹海を舞台にした稲川怪談はいくつもある。クイズ番組収録中の稲川さんが不気味な音に取り巻かれたという話、若手の撮影スタッフが霊に取り憑かれたという話。これらの恐怖シーンを思い浮かべながら、遊歩道に沿って歩きまわった。

「“樹の海”っていう言葉がぴったりだな」

 そう呟く黒さん。見わたす限りの原生林は、立ち入る者を圧倒せずにはおかない。真夜中にこんな場所で幽霊に遭遇したらたまらないだろうなあ、怖いだろうなあ、としばし稲川さんの恐怖に思いを馳せた。

 約2時間後、大きなアクシデントに見舞われることもなく無事駐車場に帰還。途中、黒氏のスマートフォンの調子が突然悪くなり、打った覚えのない奇怪な文字列のメールが表示されたり、かけたはずのない相手から「今電話しました?」という着信があったりしたが、そこは樹海ですから。木の根元に空いた穴から無惨に色あせた革のキーケースが見つかったり、黒氏秘蔵の樹海マップが謎の紛失を遂げたりもしたけれど、ま、樹海ですからねえ。

取材・文=朝宮運河
(『ダ・ヴィンチ』9月号「稲川淳二が贈る真夏の怖い話」特集より)