ゴキブリが逃げる早さはコヨーテ並み! 食べられないために進化を続ける昆虫たち

科学

更新日:2013/8/9

 夏休み、遊びや宿題で昆虫採集をした思い出は誰にでもあると思う。そのときに「木と同化していた模様の虫に気づかずビックリした」「思いっきり噛まれた」「なんでこんな模様があるのか?」「臭い液をかけられた」「ものすごい早さで逃げた」など、様々な反応を見せる昆虫に遭遇したことだろう。それは昆虫が捕食者に「食べられないために進化した証」なのだ。

 アメリカの昆虫学者、ギルバート・ウォルドバウアー氏の『食べられないために 逃げる虫、だます虫、戦う虫』(ギルバート・ウォルドバウアー:著、中里京子:訳/みすず書房) によると、地球には約120万種の生物がいて、そのうち約90万種が昆虫だそうだ(生物全体の約75%)。しかも個体数は、なんと100京(京は兆の上の単位)! ちょっと想像もつかないような数だが、地球上で一番数が多い生物は昆虫なのだ(ちなみにまだ名前のついていない昆虫はあと300万種もいるそうなので、新種を見つけて命名するなら今のうち!?)。

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 おびただしい数が生息する昆虫は動物性食物源として肉食生物の「エサ」となって、食物連鎖の欠かせない一部となっている。そして昆虫を食べることは、光合成を行う緑色植物しか合成できない糖分を、緑色植物を食べなくても得ることに繋がっているという。つまり葉などを食べている生物を食べることで、肉しか食わなくても野菜を食べたことにしてくれる、ありがたーいエサなのだ。この昆虫を食べる生物というと鳥や哺乳類を想像するが、昆虫の最大の敵は昆虫で、約30万種の昆虫が昆虫を捕食しているそうだ。

 とにかく「エサ」として狙われる虫だが、黙って食われているワケではない。タイトルにもあるように、食べられないために「逃げる」「だます」「戦う」と様々に進化しているのだ。逃げ足の速さでは、やはりゴキブリだろう。中でも沖縄などに生息する「ワモンゴキブリ」は世界で最も速く走る昆虫のひとつで、1秒間に約1.3メートルも逃げる。これは時速にすると約4.7キロだ。「なーんだ、たいしたことないじゃん」と思ったそこのあなた! ワモンゴキブリの体長は約3.8センチ、これをコヨーテの大きさ(約85センチ)に換算すると、そのスピードは何と時速105キロ! そりゃ殺虫剤を片手に追いかけても、捕まらないわけだ……。

 だますといえば「シタバガ」という蛾の一種は、鮮やかな色に黒い太い帯の模様が下の羽にあり、鳥などの捕食者に見つかると上の羽を動かしてこの模様を見せ、相手が驚いた一瞬のスキをついて逃げるそうだ。さらにその模様を視覚にインプットして追いかけてくる相手をあざ笑うかのように、どこかにとまって下の羽を隠してしまう。すると相手はシタバガが急に消えたように感じ、追跡をやめるという。まるで隠遁の術を使う忍者のようだ。そして戦う虫は噛み付いたり刺したりして攻撃するもの、身を守るための硬い鎧をまとう甲虫、忌避効果の高い分泌液を噴射する虫、また逆に目立つ色で「危ないですよ」とアピールするなど様々な「食べられないため」の技が繰り出される。そして捕食者の方も、虫から危険な針を取り除くために何度も叩きつけたり、偽フェロモンで引きつけたりなど、「食うか食われるか」の攻防は今も続いている。

 ちなみに本書で個人的に一番驚いたのは「スロースモス」というナマケモノの毛の中に住んでいるという蛾の仲間だ。週に一度木から降りてナマケモノが糞をする瞬間を逃さず、素早く体から離れて糞に卵を産み付け、幼虫は糞を食べて成長。成虫になると飛んでナマケモノを探して毛の中へ入り込み、体の上で交尾をするという。ナマケモノ1体に100匹ほどが生息しているそうだが、これぞ究極の「食べられない」方法じゃないだろうか?

文=成田全(ナリタタモツ)