マツコ、ミッツ…、その毒舌がテレビで人気の理由

芸能

公開日:2013/8/19

 朝日新聞「beランキング」によると、好感が持てるオネェキャラ芸能人は、1位「美輪明宏」、2位「はるな愛」、3位「マツコ・デラックス」、4位「ミッツ・マングローブ」、5位「ピーター」だそうだ。なぜこれほどまでにオネエキャラはもてはやされるのだろうか? 今どきの「性」についてのトークをまとめた『「オネェ」がメディアでモテる理由』(藤井誠二ほか/春秋社)を見てみよう。

 本書はインターネット動画配信サイト「ニコニコ動画」が、生放送で配信する双方向トーク番組「ニコ生トークセッション」で人気を博した5つのトーク+ルポルタージュで構成され、その全てのホストをノンフィクションライターの藤井誠二氏が務めている。冒頭に収録されているのが「ニコ生トークセッション オネェブームを斬るっ!」と題したトークを再編集した、第1章「“オネェ”がメディアでモテる理由」だ。ゲストに『女という病』(新潮社)などでおなじみの作家・中村うさぎ氏、中年ゲイの恋愛を描く『百年の憂鬱』(ポット出版)の著者である作家の伏見憲明氏、女装パフォーマーでありゲイ雑誌『バディ』の編集者であるアロム奈美江氏を迎えたトークは、いきなり中村氏が遅刻するというユルさで始まるが、内容はてんこ盛りだ。

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 その中村氏、女装してショーをする「ドラァグクィーン」の毒の持ち方と、世の中を斜めに見る視点と自虐のセンスが面白かったという。中でも当時からマツコ・デラックスは突出していて、文章も面白かったので、もっとメジャーなところで書いたほうがイイと勧めた(中村氏は「無責任に勧めた」と言っている)ことが、タレントのマツコを生んだきっかけとなったそうだ。また伏見氏はオネェのタレントが売れる理由について、それは「ある種の治外法権」であり、「所詮オカマだから」という立場や差別を受け入れることで、一般市民とは別枠になり、自由な発言権を得られる構図になっていると指摘。それに加えて中村氏は、オネェたちは差別を逆手に取って、怒る代わりに笑いへと昇華し、それを見る人を笑わせながら、最終的には見る人がオネェたちに笑われるという主客転倒を芸にしていて、さらにジェンダーや性別のバイアスを取り払った存在であるがゆえに、意見を素直に聞けるところがあると言っている。そして最終的には「マツコ土偶説」まで飛び出すが、その詳しい経緯はぜひ本書を!

 それに続いて、21世紀になって変わりつつある「性」を語り尽くすトークが目白押し。第2章は性同一性障害を公言して世田谷区議会議員となった上川あや氏と、精神科医の針間克己氏が「性同一性障害」について語り、第3章ではライターの松沢呉一氏とセックスワーカー支援団体のメンバーである要友紀子氏が、浄化運動で消えゆく風俗街とセックス産業の未来について(これ以上摘発が続くとアンダーグラウンド化すると指摘している)、第4章では『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)の著者・北原みのり氏と、雑誌文化に詳しいライターの中沢明子氏が雑誌『アンアン』のセックス特集と、この40年間の女性の生き方やセックスの移り変わりについて、そして最後の第5章では『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)の著者であり医師の宋美玄氏、バイブコレクターでOLの桃子氏、編集者の小宮亜里氏が、性科学や性医学の立場からセックスについての鼎談を繰り広げている。

 著者の藤井氏は、「性」の問題は誰しもが自分の「生」と切り離すことができないことで、本書でのトークの「現象」はすべて私たちとつながっている、とまえがきで記している。「性」にカテゴリーは存在しない。それはすべて地続きであり、皆どこかで何かとつながっているのだ。

文=成田全(ナリタタモツ)