事故物件という事実は借り主に伝える必要はない?

生活

更新日:2020/8/25

 実は、事故物件であるという事実を借り主に伝えなければならないという決まりは、法律で定められているわけではなく、原則的にないらしい。もちろん告知する不動産業者が大部分だろうが…。

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 物件探しで一番避けたいのが「ワケあり物件・事故物件」だろう。値段が相場の半額など明らかに“怪しい”と避けられるが、前述したように、「伝える」義務がないということは、何の告知がなくても数年も遡れば実は事故物件だったという可能性は捨てきれない。

 少し前にネットで話題となった不動産情報サイト「SUUMO(スーモ)」に掲載されたあからさまな事故物件。「オバケのQ太郎」を使い可愛く見せかけておいてかなり恐ろしい内容だ。問題の物件は、千葉県浦安市にある築30年のアパート。1Kで約20平米、バス・トイレ付きにも関わらず家賃は、2万3千円と格安。住みたいという問い合わせが多数あったそうだ。よっぽどの物好きなのか、とにかく安く住めればいいという人なのか。

 実際にワケありの「JKK(東京都住宅供給公社)特定物件」に暮らす20代男性Oさん(幽霊は信じない)が、事故物件を選んだ理由は“たまたま”だった。

 はじめからそういった物件を探したのではなく、たまたま若者の単身男性では入居できない家族向けの広い公社、しかも半額で住める「JKK特定物件」を見つけたそうだ。それに興味を持ち、渋谷のJKK事務所に行っところ見せられたのが「事故部屋リスト」。大雑把に病死、自殺などと書かれ、見た限り他殺はなかったそうだ。

 「Oさんの部屋は衰弱死ですから」「90歳ですから」などとアピールされたことが気に障ったものの入居を決意。入居した当初は、風呂場が浴槽から給湯器、壁紙に至るまでピカピカの新品で、それにはさすがにひいたそうだが(死体として見つかった場所はすべてリフォームされるらしい)、すでに1年以上住んでいて、特別変な現象もなければ、部屋に訪れた友人は普通の部屋だね。という反応らしい。(※3年以内の引越は認められない)

 著者自ら事故物件に住んで実態に迫った『事故物件に住んでみた』(森史之助/彩図社)によると、年間3万人を超える自殺者の最期の場所は55.3%が「自宅」らしい。日々、膨大な数の事故物件が生まれ、そこに目をつけたビジネスがひそかに成長を遂げているという。「間に賃借人がひとりいれば、2番目の住人には事故の事実を告げなくてよい」などという誤った解釈が、業界内や消費者の間でまかり通っていることへの懸念、自ら「事故物件」に住みタブー視されてきた「事故物件」を検証したのが本書だ。

 突然だが、みなさんは、「大島てる」を知っているだろうか? 「事故物件」の情報サイトだ。首都圏の地図上にオレンジ色の無数の炎のマークがプロットされている。マークをクリックすると住人のなくなった一軒家やマンション・アパートの詳細な住所や事故のあった日付、死因、さらに写真までもが掲載されている。この情報はかなり正確だそうで、マンションの部屋番号までもがわかる。

事故物件に住んでみた』では、サイトを運営する張本人、株式会社大島てる代表取締役会長・大島学氏に取材をしている。大島氏によれば、情報収集の手段は、裁判に出向き、検察官が読み上げる起訴状と裁判官の判決文をメモすること。この地道な作業をスタッフで手分けして行い、裏を取っているという。より信憑性のあるサイトということがわかり、ますます身震いがした。

 そして、冒頭で記述したように、事故物件に関する明確な記述が関係法令には一切ないのは驚きだ。

 『事故物件~』によれば、「売主・貸主が宅地建物取引業者に(事故の存在)を隠すことがある。―建物内の死亡事故などを重要事項として告知することが義務付けられているが、現状では、売主・貸主も宅建業者も、正直に言う所が損をしている」そうだ。

 事故があったことを次の入居者に告げるのは、事故後8年目まで(大阪のケース)だったり、余裕のあるオーナーは、空室のままにしておき何も騒がず、リスク回避したりするという。どこまで時間を遡って通告するかは業界でも決着がついてないらしい。

 また、ワンルームマンションで自殺した入居者の遺族と連帯保証人に対し、家主が賠償請求訴訟を起こした例もある。しかし、法規上何も書かれていない以上、司法判断に頼るしかなく、結果、事故の責任の所在が不明瞭となり、費用負担問題もおざなりというケースはざらだろう。

 本書では、URの特別募集住宅の入居システムと実情、著者が住んだ物件の近所の人の反応や聞き込み、事故物件と知って住む家族に取材した時のエピソードなどがこと細かく書かれている。また、自殺した某アイドルのマンションについては写真付きで詳細が、人気を博した某ドラマのロケ地が事故物件(映像に入り込んでいるらしい)の発生により変えられた話も書かれている。

 勇気のある人は本書を手に取って実態を知ってみるといい。

文=中川寛子