世界最速ギタリスト、イングヴェイ・J・マルムスティーンによる「俺流」自伝

音楽

公開日:2013/9/11

 「俺は貴族の末裔なんだぜ!」「アイツは嘘つきだ!」「フュージョンは嫌いだ、ベースが調子に乗って前に出ようとするからな」「バッハが死んでからは誰も作曲していない。みんな真似だぜ。バッハが死んでから初めて作曲したのは俺だ!」など、数々の「俺様キング発言」で世間をあっと言わせてきた、世界最速ギタリストのイングヴェイ・J・マルムスティーン。ついに本人の筆による『イングヴェイ・マルムスティーン自伝 Yng-WAY 俺のやり方』(イングヴェイ・J・マルムスティーン:著、野田恵子:訳/シンコーミュージック)という自伝が出版された。

 各章は『ヒロシマ・モナムール』『アイ・アム・ア・ヴァイキング』など、これまでにイングヴェイがリリースしてきた楽曲の名前が付けられており、1963年6月30日にスウェーデンで生まれたときから現在までの人生が300ページを超えるボリュームで綴られていて、なんと執筆に6年も費やしたという。冒頭には元ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュ、イングヴェイの脱退後にアルカトラスに加入したスティーヴ・ヴァイ、ステージでの共演もあるジョー・サトリアーニ、そして元オジー・オズボーンのザック・ワイルドといったギタリストや、使用するギターのフェンダーやアンプのマーシャルの担当者からの推薦の言葉もあり、意外と孤高(?)ではないことにちょっと驚く。

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 しかしその後は「やっぱりイングヴェイ」というエピソードが目白押しだ。イングヴェイが7歳だったときに死んだ伝説のギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの追悼番組に衝撃を受けて「ギターを弾きたい」と思ったそうで、小学生で早くもバンドを結成。そのメンバー募集で仲の良かった友人に「お前、俺のドラマーになれ」と言い放ち、ドラム・セットを持っていないという友人に「心配するな、俺が凄いドラム・セットを持ってる」と無理やり説き伏せてしまったそうだ。また14歳の頃に組んでいたバンドでもすべてを仕切っていたそうで、年上のメンバーから「頭のおかしい小さなナポレオン」みたいに扱われたそうで、本人も「正直な話、俺のバンドに関する道徳的価値観は、その当時からあまり変わっていないと思う」と述懐している。そしてその非道さを「世の中には正道と邪道と、Yng-WAYがある」(イングヴェイの名前の綴りであるYngwieのもじり)と言われたことがあるそうだ。

 そして19歳でアメリカに渡ったものの、誘われたバンドのスティーラーを数週間で脱退(デビュー・アルバムはなんと農家の納屋で録音したそうだ)、その後に元レインボーのヴォーカルだったグラハム・ボネットと組んだアルカトラスに関する秘話(曲を全てコントロールしていた話やバンド名が気に入らなかったこと、長々とソロを弾くイングヴェイに業を煮やしたグラハムにアンプからシールドを抜かれて音が出なくなったことが原因でパンチをお見舞いし、バンドを辞めたことなど)や、生死をさまよった自動車事故の話、マネジャーに騙されて大金を持って行かれた話などが本人の口から語られる。そして数々の「俺様キング発言」に関しては、「ジェフ・ベックを聞いたことがないのでわからない」という発言を、マスコミによって「ジェフ・ベックって誰だよ? 聞いたこともねえな」とねじ曲げられるなどしたことを告白している。

 しかしご安心を! 本書では「自分のやっていることが本物だと知っていれば、わざわざ他人に弁解する必要もない。自分のやりたいことを曲げるなんて嘘っぱちだ」と発言、俺様ショットも満載で、イングヴェイ節は全開だ。また訳文も俺様調なので、まるでイングヴェイが語って聞かせてくれているような感じを受けるだろう。ついつい周りに気を遣ってしまうなんて弱気な人は、本書を読んで、 空気を読むことなど一切考慮しない「Yng-WAY=俺様道」を見習うべし!(いや、無理か……)

文=成田全(ナリタタモツ)