「私が産むのは理想じゃないの」― 妊娠・出産をめぐる勘違いイクメンの物語

出産・子育て

更新日:2014/1/29

 俳優で参議院議員の山本太郎氏に隠し子報道が巻き起こっている。山本氏本人は子どもを抱えてマスコミの前に登場し、自分の子どもであることを認めた。山本氏が子どもの存在を隠してたこととは別に、生後2カ月の首もすわっていない赤ん坊を伴っての釈明に、ネット上で「保身のために子どもを使っている」などの声も上がっている。

 「イクメン」という言葉が生まれて早4年、育児に積極的な男性も増えてきたが、その反動か、父親であることを論拠にしたり、間違ったイクメンアピールをする男性が増え、いらだつ女性も少なくないようだ。

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 そんな勘違いイクメン予備群の描写が際立っているのが、『わたしは妊婦』(大森兄弟/河出書房新社)。初めての妊娠に不安を募らせている「私」と、自分の理想ばかりを押し付ける「夫」のすれ違いがシニカルに描かれている。

 つわりに苦しんでいるときも背中をさすってくれるものの汚物をみないように顔を背け、食卓に並ぶ魚を「胎児に影響があるかも」と過剰に不安を煽りながらチェックする。帝王切開や出産の危険性を語る「私」に向かって、「暗いんだよ、妊婦のくせに」と毒づき、生まれてもいない子ども2人とともに夏休みの旅行について妄想を繰り広げる。母を亡くし里帰りできない「私」を思ってか、相談もなく義母に手伝ってもらう約束を取り付け、話は平行線のままなのに、突然出産に立ち会うことを一方的に宣言し、そんな自分に酔いしれる。

 「心配なんだ」「妊婦なんだから」と気遣うふりをして、過酷な現実と自分の理想像を「私」に押し付け、“優しい夫、理解のある夫”という称賛を得るために心を砕く様が畳みかけるように描かれており、読者としても苦い顔で眺めてしまう。そんな「夫」に、「私」はとうとう言ってしまう。

「私が産むのは理想じゃないの」

 男性も女性並みに、いや女性以上に「子をもつこと」に夢を見る。しかし、立場が違うがゆえに互いが本当に望んでいることに理解できずにズレが生じることは珍しいことではない。出産に対する夫婦のモチベーションの落差を絶妙に描いた『わたしは妊婦』、男性も自戒と女性への理解のために読んでみることをお勧めしたい。