年収300万が一番幸せ? “プア充”のススメ

生活

更新日:2013/9/19

 総務省が7月に発表した「就業構造基本調査」によると、パートやアルバイトなどの非正規社員数は2043万人となって2000万人を初めて越え、働く人全体の38.2%を占めているそうだ。また過去5年の調査によると、正社員だった人が転職すると非正規社員になってしまう割合は40.3%、半数近くの人が不安定な仕事を選んでいるそうだ。その反対、非正規社員から正社員になったのは約4人に1人の24.1%、こちらもかなりの狭き門となっている。

 正社員になれず、なれたと思ったらブラック企業だった、なんて落とし穴があったり、サービス残業や過酷な労働に対して収入が見合わなくて、お金も貯まらずに将来には不安がいっぱい、さらにはセクハラ、パワハラ、モラハラ、マタハラなどもあり、これじゃ結婚や子育てどころじゃない!…… などなど、働く人を取り巻く環境が問題となっている日本。そんな不安ばかりな人たちに、そこそこ働いて、企業に縛られず、安定した低賃金で自分の生活をイキイキさせ、未来に希望が持てる、という生き方を提唱するのが、宗教学者・島田裕巳氏の『プア充 高収入は、要らない』(島田裕巳/早川書房)という生き方だ。

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「リア充は知ってるけど、プア充っていったい何だ?」

 プア充を説明するため、島田氏は本書のプロローグで「少欲知足」という思想を紹介している。これは東洋の宗教の考え方で、出世して金儲けをするのではなく、欲望を抱かずに満足して生きていく、ということだという。この考え方をベースに、島田氏の大学時代の恩師である宗教学者が現代の日本に適した形にアレンジしたのが「プア充」なのだそうだ。プア(収入が少ない)でも充実した生活……しかしその話を聞いた島田氏は、当初「貧乏人の強がり」で「刺激も楽しみもない、つまらない生活」とバッサリ切り捨て、「頑張って働いて給料上げろ」と思っていたそうだが、ちょっとしたきっかけからプア充な生活を実践してみると価値観が一変、毎日が楽しくなり、将来への不安が消えて、自分の未来に希望が持てるようになったという。

「そんな少ない給料でどうやって生活するんだ? 第一、結婚は金がないとできないだろ!?」

 島田氏はそう思った人でも、本書を読むとそんな「思い込み」は絶対に変わるという。その理由として、今後の日本では機械化が進んで人の手がいらなくなり、右肩上がりの成長を続けるという考え方は通用しなくなることを挙げている。そんな中で、わずかばかり給料を上げるために心も体もすり減らして働く意味はあるのかと問いかけ、「貧しいからこそ楽しく豊かに生きられる」ことを選択すべきだという。ちなみに本書は普通のノウハウ本とは違い、30歳の男性が主人公となった小説形式で「プア充」の内容がわかりやすく説明されていく。どんな会社がいいのか、家や車は買った方がいいのか、都会と地方のどちらに住むべきか、お金のかからない暮らしに必要なものは何か、将来に対してネガティブな感情を持たないためにはどうしたらいいのかなど「プア充」の考え方を、主人公の成長とともに学ぶことができる。

 現代の日本では、年収300万円くらいが最も幸せに暮らしていける社会だという島田氏。もちろん「それは違う。俺はもっと稼ぎたいんだ!」という人もいるだろう。しかし「朝は5時起きで、帰宅は深夜。飯はコンビニ弁当、休日は疲れて寝溜めしている」なんて人は、一度立ち止まって、これからの日本の状況を踏まえて、ぜひ「プア充」について考えてみて欲しい。

文=成田全(ナリタタモツ)