滝クリの「おもてなし」宣言は実行できる? 「おもてなし」はこんなに大変!

人間関係

更新日:2013/9/26

 開催が決まった東京オリンピックの話題以上に盛り上がり、一躍、今年の流行語大賞候補に名乗りを上げてしまった、滝川クリステルの「おもてなし」スピーチ。これにより、いわば世界中に「おもてなしの国」として日本は認知されてしまったわけだが、滝クリの演説で「おもてなし」の一例として挙げられたのは、現金を落としても返ってくる……ということ。だが、これが本当に“おもてなし”というものなのだろうか?

 『おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る』(ワークス編集部/英治出版)によれば、日本のおもてなしというのは「“もてなし”“しつらい”“ふるまい”が三位一体となって初めて実現されるものだった」そう。「しつらい」は、季節や趣向に合わせて調度品や花を選び部屋を整えること。「ふるまい」は、TPOや趣向にふさわしい身のこなしをすること。どうやら「もてなし」だけでは「おもてなし」にはならないらしい。

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 また、「おもてなし」というのはコストをかければいいというものではない。本書に登場する編集工学研究所の松岡正剛は“ある企業のおもてなしの失敗例”を紹介しているのだが、そこから「おもてなし」とは何かを考えてみよう。

 舞台は、大手保険会社と電機メーカーの役員どうしの懇談会。電機メーカー側にとって、保険会社は大株主であり、コンピュータソフトを毎年何百億円も発注してくれる得意先。恒例の懇談会は、新しいソフトウェアのプレゼンの場でもあった。電機メーカーは料亭で会食したりゴルフをしたりと接待に勤しむが、肝心の保険会社からは「こんなことなら懇談会はやらなくてもいい」とまさかの拒否反応が返ってきてしまったから、さあ大変。混乱した電機メーカーは松岡に「もてなしの演出をしてほしい」と依頼してきたらしい。

 まず、松岡は、電機メーカーの社長に「先方の役員が到着したとき、社長自ら車のドアを開けて迎えてくれ」と提案。これがもてなしの姿勢を見せる一歩といったところなのだろうが、社長は「できない、やったことがない」と言う。それでもなお松岡は「それならドアの開け方を練習すればいい」と姿勢を曲げない。いわく「ふだんやっていないことを準備して、初めてもてなしになるのだから」というのだ。

 結局、懇談会の会場は料亭でもホテルでもなく、電機メーカーの本社が選ばれた。殺風景な会議室を「控えの部屋」「プレゼンの部屋」「もてなしの部屋」にしつらえ、料理からミネラルウォーターまで「自分たちで味見して選んだもの」を用意。社長をはじめ社員が心を込めて準備することで「おもてなし」が実現できたのだという。おもてなしとは、お金で解決できない相当な労力がかかるものらしい。

 「おもてなし」に近いニュアンスで受け止められがちな言葉に「ホスピタリティ」というものがあるが、これは「おもてなし」と根本的に違う。ホスピタリティは十字軍の救護宿が語源で、ホスピタルは「一点監視できる状態が保たれる管理型施設」のこと。一方「おもてなし」には、相手を想像して、どうすればいいかを考える「創発的な動き」が必要だ。マニュアル中心のホスピタリティに慣れてしまった日本人が、果たしてオリンピックを通して「おもてなし」を具現化できるのか。正直、不安のほうが大きい気もするが……。