東京五輪よりもコミケが心配? なぜ人は二次創作に惹かれるの?

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更新日:2014/4/15

 2020年、東京五輪。開催が決定した瞬間、日本中が歓喜に湧いた一方で、一部のネット民に元気はなかった。Twitter上では多くのオタク達がこんな不安を口にしていた。「2020年…コミケは大丈夫なのか?」

 世界最大規模の同人誌即売会であるコミックマーケット、通称コミケは年2回、お台場の東京ビッグサイトを会場として開催される。だが、そこは奇しくもオリンピックの競技開催予定地でもあるのだ。これからはビッグサイトの改修工事も行なわれ、2020年には海外からたくさんの観光客も訪れる…。となると、一体、俺たちのコミケはどうなってしまうのか? と多くのファンは心配しているらしい。7年後も絶対に参加したいと人々を魅了するコミケの魅力とは何なのだろうか? 人々は同人誌、特に二次創作物になぜ惹かれてしまうのだろうか?

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 コミケの初代代表である霜月たかなか著『コミックマーケット創世記』(朝日新聞出版)にはその誕生の背景が描かれている。コミケの原点は1966年末に手塚治虫の虫プロダクションから創刊されたマンガ専門誌『COM』の巻末コーナー「ぐら・こん」。これは投稿作品やマンガ同人誌を紹介する読者欄だったが、ここから同人誌に目覚めたファン達が各地でサークルを結成するようになったらしい。とはいえこの時代、同人誌売買の場は限られていた。そこに誕生したのがコミケだ。

 コミケ誕生以前にファン達が開くイベントといえば漫画作家を呼んでの講演会が中心だったが、コミケは同人誌即売をメインに置いた。コミケでは単なる売り手と買い手でなく、店を出す「サークル参加者」と店を訪れる「一般参加者」が平等な立場で好きな作品について自由に語り合える。それ故、漫画を読むだけに飽き足らなかったファン達の心を鷲掴みにしたらしい。第1回参加者700人は今夏の84回目には59万人にまで増加。コミケはマンガ・オタク文化にとって非常に大きな影響を与えてきたと言える。

 有名漫画のパロディである二次創作の売買が中心に行なわれているということも、人々がコミケに熱狂する要因のひとつだ。

 二次創作とは、自分が感じた作品の魅力を表現する方法で、原典へ面白みを感じているから行われる手法だ。『著作権とは何か 文化と創造のゆくえ』(福井健策/集英社)によれば、オリジナル作品を想起させるだけの「連想型」もあれば、キャラクター等を借りた「借用型」、借用部分と創作部分が渾然一体となった「取込型」があるという。元ネタを知って二次創作を読んだ者は作者が自分と同じモノを愛していることに喜びを感じる。そして、作者と同じものを共有しているという一体感、原作を知っている者、原作が分かった者としての快感や優越感を得られる。読者は元ネタの面白さを追体験し、二次創作に重ね合わせることで、創作物に更なる魅力を感じてしまう。作者と読者が原作という共通項によって、より強い絆で結ばれるのだろう。

 福井によれば、二次創作の歴史は深く、日本においては和歌の世界で古くから「本歌取り」の技法が用いられ、江戸時代には有名な和歌をもじった狂歌や川柳が流行したらしい。時代を経て、二次創作は人の心も魅了しつづけ、今では同人誌ブームやコミケの熱狂を生み出した他、ネット上ではSSなどと呼ばれる非公式二次創作小説や、アニメ画像などを元に面白く加工した「コラ画像」が日々生み出されている。しかし、二次創作には課題も残されており、著作権の問題は未解決で、特に二次創作が取り締まりの対象となってしまうTPPの知的財産条項における影響も危惧されているようだ。

 遥か昔から行なわれてきた、二次創作。日本人をよりクリエイティブにしてくれるこの文化は2020年、コミケによって益々発展を遂げているに違いない。オリンピックの問題も著作権の問題も乗り越えて、無事開催されるコミケをぜひ見てみたい! 今から7年後が楽しみでしかたがない。

文 = アサトーミナミ