アベノミクスより萌えノミクス!? 萌えで世界は救えるか?

マンガ

公開日:2013/10/6

 世界に誇る日本のオタク文化だが、このオタク文化を使えば異国どころか異世界とでも交易ができてしまう──そんなラノベが登場した。10月3日からアニメが始まった『アウトブレイク・カンパニー』(榊 一郎:著、ゆーげん:イラスト/講談社)は、自宅警備員だった主人公の加納慎一が異世界である神聖エルダント帝国でオタク文化を浸透させるために奮闘するというお話。しかし、言葉も通じない異世界で彼は一体どうやって萌えを広め、交易していくというのだろう。

 まずはじめに彼がやったのは、マンガの朗読だ。異世界である神聖エルダント帝国の人々が日本語の読み書きなんて当然できるはずもないが、魔章指輪という道具を使えば、それをつけているもの同士、互いに意志疎通できるという。だから、最初はごく身近な存在だったメイドのハーフエルフのミュセルと、神聖エルダント帝国の皇帝である美幼女・ペトラルカに読み聞かせることから始める。マンガの中身は、異世界の彼女たちにもわかりやすい冒険活劇系のファンタジー。そして、魔章指輪をつけた慎一の両サイドにミュセルとペトラルカが寄り添うかたちで朗読するのだが、ペトラルカに至ってはミュセルへの対抗心からか、慎一の膝の上に座るかたちでマンガの朗読を聞くようになってしまう。でも、オタク文化を浸透させるためにはまずオタク文化に興味を持ってもらうことが何よりも大切だ。その点、皇帝であるペトラルカをそこまで虜にできたなら、オタク文化浸透への道は一気に開けたと言っても過言ではない。

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 そして、次に取りかかったのが「オタク養成所」とも言うべき学校の設立。ここでは、オタク文化の前段階である基本的な日本の教養なども教えながら、マンガやアニメ、ゲームの楽しみ方を教えていく。学園モノの雰囲気を知ってもらうために、教室や時間割も日本にならって作られており、ここでビデオを見せたり、マンガやラノベを朗読したりするのだ。ときには、慎一の護衛役でもある自衛隊員の美埜里が「私の後に続いて復唱するように」とスパルタちっくに「総受け」や「男の娘」、「絶対領域」、「ヤンデレ」といったものすごく偏った知識を授けることも。しかし、きちんとオタク文化を学んだり、オタク文化に触れられる場所でもある学校という箱を整えるのは、長い目で見れば貴族や富裕層といった一部の層だけでなく、すべての国民にオタク文化を浸透させるうえで欠かせないことなのかも。

 そして、学校でオタク文化を学んだ彼らはただオタク文化を受け入れるだけじゃなく、自分たちでアレンジを加えたりしながら、次第に発信する側へと変化していく。たとえば、ある生徒は一心不乱にラノベを神聖エルダント帝国の言葉に翻訳する。またある生徒は、その翻訳されたラノベを吟遊詩人の要領で弾き語りしながらみんなに広めていく。他にも、萌え絵を描けるように本を見ながら勉強するものや映画撮影をするもの、キャラ弁づくりにチャレンジするものなど、さまざまな作り手へと進化していく。そこから、また新たなオタク文化が生まれてくるのだ。

 もしかしたら現実の日本でも、アベノミクスより“萌えノミクス”のほうが頼りになるかもしれない。

文=小里樹