いまどきは高学歴も当然!? 女性たちがプロレスに就職した理由

スポーツ

更新日:2014/4/28

 メジャー団体の新日本プロレスが、連日超満員の盛況となっているほか、インディーズ団体DDTの試合が特番扱いながら地上波で中継されるなど、数年ぶりの盛り上がりをみせているプロレス界。とはいえ、ゴールデンタイムに試合の生中継があった時代に比べれば、ブームはまだまだ小さなもの。特に、女子プロレスに関しては、中心団体だった全日本女子プロレスの崩壊以降、新規ファン獲得などに苦戦し規模は年々縮小。専門誌での扱いも小さくなってしまうなど、決して好調とはいえない状況だ。

 とはいえ、女子プロレスに終焉の危機が訪れているかといえば、決してそんなことはない。全盛期のイメージからの脱却をめざし、各団体とも新たなスタイルを模索しており、女性を含む今までとは違うファン層を、徐々にではあるが増やしている。そうした新しい流れを担っているのが、プロレスブームを知らずにこの世界に入った“新世代”の選手たちだ。注目されれば人気タレント並みの知名度が得られた時代とは違い、「職業」としてのプロレスは、正直なところ色々な面でハードなお仕事。いったい、彼女たちは何故、今、女子プロレスラーへの道を歩むことにしたのだろうか? 

advertisement

 そのあたりの事情を、当の選手たちに尋ねたのが『新卒プロレス~リングに就職した大学生たち~』(泉井弘之介、山近義幸/ザメディアジョン・エデュケーショナル)。中学卒業後すぐ入門しティーンのうちにデビューというコースが、女子の場合でも一般的だったプロレス界で、最近増えている大卒女子レスラーにスポットを当てたインタビュー集である。

 たとえば、現在「アイスリボン」という団体のエースとして活躍する藤本つかさ選手(東北福祉大学卒)は卒業後、出版社の営業職として働いていたが、あるきっかけで受けた映画のオーディションが転身のきっかけに。オーディション会場で、その映画のテーマがプロレスだったことを知り、そこから役者としてプロレスの練習を開始。最後まで練習に耐えたメンバーのひとりとして映画に出演し、最終的にプロレスラーの道を選んだという。

 同じく「アイスリボン」の内藤メアリ選手(埼玉大学卒)は、デビューが36歳という異例の遅咲き。福祉関係の団体に就職後、同僚に誘われて観戦したのがきっかけで、「アイスリボン」が主催する、一般人向けのプロレス教室に参加するようになり、2011年にプロとなった(現在も福祉団体の仕事は続けている)。

 その他、尼僧の仕事とレスラーを両立させている雫あき(フリー選手)やタレント活動からレスラーに転身した吉乃すみれ(現在は活動休止中)など、ユニークな経歴をもつ計8名の“大卒女子レスラー”たちが語る、プロレスの魅力に共通しているのは、闘う自分の姿を通じ観客に何かを伝えられる、ということ。「自分が嫌だなーと思うことも含め応援してもらえる。結果がダメでも、そこから這い上がろうとすれば応援してくれるファンがいる」(藤本)、「勝ち負けだけじゃないってことを(プロレスで)伝えられる」(内藤)など、どの選手のコメントからも、自分の職業に使命と誇り、そして充実を感じていることがよくわかる。

 「なぜそこまで…」と絶句する瞬間も多々ある、文字通り身体を張った闘いを披露するプロレスというお仕事。そこに女子が挑むとなれば、好奇の視点が加わり、なかなか世間の評価も定まらないのが実情だろう。しかし、それだけにこの世界で“働く”選手たちの情熱は、欲得を越えたピュアさを含んでおり、見る人の心をストレートに揺さぶる。細分化&複雑化した昨今の社会に疲れや迷いを感じたとき、彼女たちの闘いにふれることで、映画や文芸、演劇からとは一味違う、生々しい感動と勇気を得ることができるのではないだろうか。

文=石井女子プ郎