なぜ人気アニメの舞台は埼玉が多いのか?

マンガ

更新日:2014/12/25

 埼玉ゆかりのマンガ・アニメを主体としたイベント「アニ玉祭」が10月19、20日に開催される。聖地巡礼の火付け役となった『らき☆すた』の久喜市・鷲宮神社をはじめ、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『神様はじめました』など、アニメの聖地が集中している埼玉。

 しかし、「夏に旅行や遊びに行ってみたい都道府県ランキング」ではなんと最下位で、朝ドラの舞台になったのも47都道府県中いちばん最後、ダ埼玉などとバカにされることも多い埼玉県。それが、なぜアニメでは人気作品の舞台になることが多いのだろうか?

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 まず、遊ぶ場所がない、観光地がないとよく言われる埼玉。しかし、その“観光に行きたいと思われない”ほどの特色の薄さが、逆に重宝されているのかもしれないのだ。アニメの聖地と呼ばれる場所の多くは、実在するその場所の地名が登場するケースは少ない。背景画のモデルになることはあっても、実在する地名が登場することは少ない。つまり、聖地は舞台というよりも、たんなる風景でしかないのだ。それに、最近はファンタジーよりも現代を舞台にしたアニメが増えているので、東京のような大都市でもなく、その地方ならではの風情ある田舎でもなく、ごく普通に人々が暮らしている風景のほうが、アニメの背景としては適している。アニメの舞台は、あくまでもどこにでもありそうな“日本のとある場所”。東京タワーや金閣寺のように、誰もが東京や京都を思い浮かべるようなものが出てきてしまうと、観る側がアニメの世界にもリアルのイメージを重ねてしまうので、余計なものを付け加えることになる。逆に、埼玉の風景はどこにでもありそうなものだからこそ、どこでもない世界。“とある場所”をつくるのに適しているのだ。そんな匿名性という点において、埼玉はモデルにぴったりだったのだろう。

 さらに、実は県外の人に知られていないだけで、埼玉には画にしたときに映えるような隠れた名所がたくさんある。たとえば、『あの花』で有名になった秩父の武甲山や秩父橋もそう。『神様はじめました』には川越市のシンボルでもある時の鐘がOPから登場するし、「小江戸」とも言われる古い町並みが残っているのも特徴だ。そして、レンガの街として知られる深谷の深谷駅は、『魔法先生ネギま!』の校舎の元になっている。こんなふうに、埼玉には有名な観光地でなくてもちょっと目につくような、印象に残るものが多いのだ。

 また、ご存知の人も多いかもしれないが、アニメの制作会社の多くは練馬区、杉並区、中野区といった東京西部に集中している。だから西武線沿線にあることも多く、埼玉へのアクセスはかなりいい。ただ、いくら近いからと言っても、なんでわざわざ背景のためだけに取材に行く必要があるのかと疑問に思った人もいるはず。それは、最近のアニメのクオリティが上がり、背景にも緻密さが求められるようになってきたから。そうなると、新しい街をゼロから創り出すのは困難。そこで、背景の参考にするため、ロケ先として白羽の矢が立ったのが埼玉だ。制作費も時間もカツカツなアニメ制作会社にとって、安く早く取材に行けるスポットはとても貴重なもの。わざわざ時間とお金をかけることなく、日帰りで行けることも魅力なのだろう。

 そして、他の地域との大きなちがいは、埼玉が県をあげてアニメの聖地をバックアップしているところ。そもそも、聖地は舞台となった土地や商店街が町おこしを兼ねて協力する場合が多いので、『ガールズ&パンツァー』の舞台となった茨城県大洗町や『花咲くいろは』のモデルとなった石川県の湯涌温泉のように地区ごとに盛り上がっているケースが多い。しかし、埼玉はそれを県全体で支持しているのだ。たとえば、埼玉県公式観光サイトの「ちょこたび埼玉」では、アニメキャラが観光案内をしてくれる無料アプリの配布が行われているし、県のHPでも「舞台は埼玉 アニメの聖地を巡りに行こう!」と題した記事が掲載されていたりする。

 もしかしたら、香川のうどん県ならぬ埼玉のアニメ県が誕生する日も近い?

文=小里樹