アイドルユニット「リンダIII世」誕生の理由は「群馬県ブラジル町」にあり?

暮らし

公開日:2013/10/25

 巷で、或いは世界の片隅で話題のアイドルユニット「リンダIII世」。K‐POPでもない、J‐POPでもない、彼女たちだけのB‐POPチューン! 独自の世界観と音楽性でファンの心をつかんだ5人のアイドルたちはなんと──全員が、日本生まれ、群馬育ちのブラジル人なのだ。

 なぜ群馬からブラジル人アイドルユニットが生まれたのか? その謎を解く手がかりのひとつが、「群馬県ブラジル町」と呼ばれ、ブラジルをはじめとする中南米の人々が人口の10%を占める町──大泉町にある。

advertisement

 1990年の出入国管理法の改正によって、ブラジルやペルーの日系人の日本での就労が可能になり、大手企業の工場がありながら人手不足に困っていた大泉町では、積極的に日系人を誘致。その結果、町にはブラジル人やペルー人が大勢集まり、外国人で賑った。

 という経緯で群馬とブラジルにつながりが生まれたのだが、そんな町に「住んでみよっかな」と考えちゃった人がいる。中川学さん──育ち盛りの37才(本人談)、マンガ家だ。

 その最新作はズバリ『群馬県ブラジル町に住んでみた ラテンな友だちづくり奮闘記』(メディアファクトリー)だ。

 人見知りで友だちも少ないという中川さんは、引っ込み思案な自分の性格を劇的に変えるために「外国に行ってみたい」と思うものの、勇気が出ない。そんなある日、突然思いついた。コンビニ、カレー屋、新大久保のコリアンタウン……日本には思いの他、外国人がたくさん暮らしている。

「外国の文化に触れるのに、必ずしも海外に行かなくていいんだ!」と。

 ホントかよ、と突っ込みたくなるところだが、中川さんのビミョーなプラス思考は、ネット検索によって「外国人が多く住んでいる町」を探り当てる。そう、それが群馬県大泉町だった。

 当時、池袋に住んでいた中川さんは、約2時間の電車旅行で行くことができる大泉町へ出かける。そこには予想以上の「ブラジル町」が広がっていた。町の看板には日本語とポルトガル語が当然のように併記され、100%外国人のお客さんばかりのスーパーには見たこともない南米の食材が並び、ちょっとエッチな外国の雑誌やタトゥーショップにドキドキし、彼は思う──ここはもやは群馬ではない。GUNMAだ! と。

 その日から、毎週のように大泉町に出かけるようになった中川さんは、ブラジル料理を食べたり、町を散策するうちに、本当に交流するのなら「町に住むべきだ」と思うようになり、ついに引っ越してしまう。

 友だちを作るために、ダンスイベントや町の忘年会、フットサルなどに次々と参加する中川さんの顛末は、コミックを読んでいただくとして、群馬に限らず日本各地に大泉町のようにブラジルの人たちが大勢暮らしている町が増えている。接点もなく、言葉もなかなか通じない外国の人々と交流するのに不安も抵抗もあるのも分かる。

 でも、その壁を少しだけ越えてみることができたのなら世界は広がる。筆者も日本で働くブラジル人とフットサルをやっていたことがあるが、遊びのサッカーなのに勝ち負けにやたらこだわって熱くなる一方で、プレー中には笑いが絶えない陽気さがあって、本当に楽しかった。時には、河原でシュラスコというブラジル風バーベキューを一緒にしたりもしたが、朝から晩まで愉快に酒を飲み、美味い肉を食べ、笑い続けていた彼らを思い出すと、中川さんが大泉町で暮らしてみたくなった理由もわかる気がする。日本人的なシャイさが恥ずかしくなるほどに、熱くて明るいブラジリアンパワーに、気づけば元気になっている自分を感じてしまうからだ。

 折しも来年はブラジルでサッカーのワールドカップが開催される。「現地での観戦はムリ」というあなた。群馬県ブラジル町こと大泉町で、あるいはあなたの地元にもあるだろう“ブラジル町”で、一緒にサッカー観戦してみてはいかが?

文=水陶マコト