実写化でアラフォー女子悶絶、懐かしさと黒歴史が入り混じる『ホットロード』

マンガ

更新日:2013/10/28

 NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で一躍国民的人気女優となった能年玲奈。『あまちゃん』で見せた瑞々しい演技とフレッシュな笑顔の印象が強く、次の出演作に大きな期待が寄せられていた。ところが先日、能年主演で、紡木たくの代表作ともいえる少女マンガ『ホットロード』(集英社)の実写化決定が報じられると、TwitterやFacebookなどのSNSで「何でいまさら?」「能年とイメージと違う」といった反発の声が多く上がった。

 特に30代・40代女性のリアルタイムで同作を読んでいた世代からは懐かしむ声、原作に憧れていたという「黒歴史」を掘り返されて息も絶え絶えに打ちひしがれる声など、いろんな意味で“悶絶”している様子が見て取れた。『ホットロード』がなぜそんなに女性の心を捉えたのか、改めて作品を振り返りながら、その魅力を分析してみよう。

advertisement

 まず当時の読者を引き付けたのは、作品の根底にある「社会/大人たちのへの反発」。主人公の和希は、父を亡くし、母と2人で住んでいるが、母には学生時代から付き合っている男性がおり、自分が「いらない子」だったのではないかという孤独感を常に抱えてきた。転校生の絵里と仲良くなったこときっかけで、暴走族「ナイツ」のメンバー、そして命知らずな不良少年・ハルヤマと知り合うが、それぞれが社会からの偏見や家族内の問題に悩んでいることに気付く。紡木は思春期特有の繊細な機微を描くことに定評があり、読者は和希の視点を通じて、自分たちを理解しようとしない大人への反発を強め、キャラクターたちに共感していったのである。

 さらに作品を支えていた「ヤンキー文化」は、当時の少女たちの憧れ。実際の読者は文化系女子でヤンキー文化には触れていない人たち。しかし、ハルヤマが付けていた「タクティス」という香水や、和希がオキシドールで髪の毛を脱色するシーン、和希がハルヤマの名前を腕に彫るシーンなど、異文化ゆえに憧れを抱いていた読者は少なくないはず。ただ、その憧れが時を過ぎて「黒歴史」になってしまい、実写化決定のニュースで恥ずかしさに身悶える女子を大量に生み出したのだ。

 そしてなんといっても、この作品の最大の魅力は、和希が困った際には必ず助けにくるハルヤマのキャラクターにある。ナンパしてきた男に油断し襲われそうになったときには、バイクで颯爽と登場して和希を救い出し、母親不在のときに高熱にうなされている和希を自分の母親に預け、一度別れた和希に「迎えに来て」と泣かれれば、教師や学校から和希をかっさらう。和希が母親に初めて自分の孤独感をぶちまけた際に放った、「おばさん こいつのこと きらいなの? もしそーなら オレがー もらってっちゃうよ」はヤンキーの純愛に憧れる乙女たちのハートを鷲掴みにした。自身も複雑な家庭環境に育ち、孤独感を背負いこみながらも、ここぞという時に和希を救うハルヤマは、少女マンガにおける新しいタイプのヒーローだったのだ。

 実写版ではいまだハルヤマのキャストは発表されておず、若手俳優を中心にさまざまな名前がネット上に上がっている。実写版の成功の鍵を握るハルヤマ役は誰になるのか、原作を読み返しながら、楽しみに続報を待ちたい。